電子タバコ(e-cigarettes、Electronic Nicotine Delivery Systems:ENDS)は、2003年中国の薬剤師Hon Likによって開発され実用化されたもので、専用カートリッジ内の液体(ニコチン、プロピレングリコール、植物性グリセリン等)を熱して霧状化し、その微粒子(vapor)を吸引する。燃性タバコとは異なり、火気を用いないので燃焼に伴うタールや一酸化炭素は発生しない。また、副流煙も発生しない。
このため、他人に迷惑をかけず自身の健康を害することもないとして、最近米国や英国などにおいて急速に市場を拡大しつつある。そして、2014年10月13日から18日までモスクワにおいて開催された「タバコ規制枠組み条約」第6回締約国会議(以下COP6)に向けて、電子タバコに関する世界保健機関(WHO)のレポートが公表された1)。
WHOのレポートの作成に向け背景報告書2)が用意されたが、これに対してMcNeilらは批判している3)。電子タバコ使用者および周囲の者の健康へのリスクの程度をどう評価するか、電子タバコは禁煙に役立つか、電子タバコは未成年者に対して紙巻きタバコの使用へ誘導するゲートウェイにならないか等々、電子タバコに関する基本的な認識において、タバコ規制の主唱者の間でも意見が分かれ、さらに電子タバコの規制のあり方を巡ってこれまで激しい論争が行われてきた4)。
WHOのレポートでは、①電子タバコの使用者および非使用者への健康リスク、 ②禁煙に対する電子タバコの効能、 ③現行のタバコ規制の取組みや「タバコ規制枠組み条約」の履行に対する妨害について述べた上で、規制のあり方について議論を進めている。
①では、サマリーとして次のように述べている。
「電子タバコのエアゾールは、決して『水蒸気』ではない。青少年や胎児には深刻な脅威となる。さらに、非喫煙者や周囲の者にニコチンなどの有毒物質への曝露を増加させる。しかしながら、成人の喫煙者が紙巻きタバコの代替として電子タバコを使用する場合は、従来の紙巻きタバコなどの燃性タバコに比較して毒性は低いと考えられる。ただし、リスクの減少程度は、現時点では不明である」
②では次のように述べている。
「禁煙の手段としての電子タバコの有効性のエビデンスは限られていて、まだ結論を出すことができない。しかし、ニコチンパッチと比較した唯一のRCT5)ではパッチと同様の効果が見られ、最近の英国における調査では現実世界でも効果が認められたとの報告6)がある」「喫煙者にはまずは認可済みの禁煙治療を勧めるべきだが、禁煙治療に失敗した者、従来の禁煙治療薬を受けつけなかった者や拒否する喫煙者の禁煙試行の支援において、(適切な規制の下にある)電子タバコが一定の役割を果たしうるとの専門家の示唆がある」
③では、喫煙へのゲートウェイや喫煙の再正規化(renormalization)の心配、タバコ会社の役割、受動喫煙防止政策への妨害などを論じている。
レポートの規制の部分の総論では、電子タバコの規制は、その使用の効果を判定する科学的根拠を確立するため、また適切な研究が実施され一般大衆が電子タバコの利益とリスクに関する最新で信頼できる情報を持ち、健康が確実に守られるようにするための必須の前提条件であるとしている。そして各論では、非喫煙者・妊婦・青少年への電子タバコの販売促進と使用の阻止、電子タバコ使用者と非使用者への健康リスクの最小化、証明されていない電子タバコの健康に関する主張の禁止、タバコ産業の商業的その他の既得権益からのタバコ規制の努力の擁護を各国の法体系の中で検討すべきだとした。
なお、COP6では、ニコチンを含まない電子タバコもあわせて対象とすることとされ、2年後のCOP7に向けて専門家によるレポートの作成など電子タバコの規制のあり方に関してさらに検討することとなった7)。
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