(岐阜県 K)
【MetSの管理でCKDの発症率は抑えられる】
CKDは0.15g/gCr以上の蛋白尿(または30mg/gCr以上のアルブミン尿)や糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)の低値(<60mL/分/1.73m2)が3カ月以上持続する場合に診断されます。透析患者も腎移植レシピエントも含まれます。メタボリックシンドローム(metabolic syndrome:MetS)の構成要因(肥満/腹囲増大,血圧高値,脂質代謝異常)はそれぞれ単独でも心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)の発症要因ですが,CKDの発症や進展因子ともなり,末期腎不全(透析導入)の危険因子でもあります。CKDは感染症発症の危険因子でもあり,生活の質を低下させ,社会・経済的負担を増加させます。特に高齢者では,栄養障害,筋力低下の基礎疾患としてCKDの適切な管理が重要です。腎機能が低下するほど輸液や薬物療法の管理が困難です。そのほか飲酒,喫煙,睡眠障害,高尿酸血症などの生活習慣および食事,文化的背景,環境の違いが複合的に関連します。CKDの頻度の差を生む要因として,性差,地域差,人種差も考えられます。
2008年度より実施されている40~74歳の公的医療保険加入者全員を対象にした特定健診(いわゆるメタボ健診)では,MetSを早期に発見し,管理・治療,生活習慣改善によるCKDの発症阻止も期待されています。試験紙による尿蛋白検査はCKDの早期発見およびその後の費用対効果に最も優れていることが報告されています1)。
これまでの18編の論文のメタ解析によると,BMIが1.0上昇するごとにCKDが6%増加します2)。わが国の報告でもCKDの発症頻度および発症率はMetSの構成因子数が増加するにつれ高くなります3)4)。MetSを有する群は5年間で約2倍のCKD発症危険度が認められます(図1・2)。沖縄県の健診受診者の成績では男性においてBMIと透析導入率に有意な相関が認められます5)。
肥満腎症の腎生検組織では,メサンギウムの増大,糸球体基底膜の肥厚など糖尿病性腎症に似た所見を示します6)。そして腎生検に占める割合が増えています。肥満腎症は減量により改善する可能性があり,比較的予後は良好とされています。
肥満による腎障害の発症には種々の機序が考えられます。中でも,腎血行動態の異常,糸球体の過剰濾過が注目されます。腎提供者でもBMIが高いほど,提供後のCKD発症率が高いことが報告されています。肥満を伴う症例での正確なGFRの推定は困難ですが,初期には過剰濾過(GFRの機能的上昇)があり,持続すると糸球体硬化を生じ,急速にGFRが低下します。GFRの推測式の精度は60mL/分/1.73m2未満まではかなり正確ですが,それ以上では過少評価します。
MetSの治療により,患者の予後は改善すると考えられますが,CKDの進展予防,透析導入の阻止等における明確な指導・治療効果のエビデンスはまだ十分ではありません。MetSを認めた場合,心血管合併症を評価し,肥満,高血圧,糖尿病などの基礎疾患,CKD重症度も考慮して,患者個々に適した治療を行う必要があります。
【文献】
1) Kondo M, et al:Clin Exp Nephrol. 2012;16(2): 279-91.
2) Wang Y, et al:Kidney Int. 2008;73(1):19-33.
3) Tozawa M, et al:Hypertens Res. 2007;30(10): 937-43.
4) Iseki K, et al:Kidney Int. 2004;65(5):1870-6.
5) Ninomiya T, et al:Am J Kidney Dis. 2006;48 (3):383-91.
6) Kambham N, et al:Kidney Int. 2001;59 (4):1498-509.
【回答者】
井関邦敏 豊見城中央病院臨床研究支援センター長