「天皇陛下ご重体」との報道に日本中が騒然となった1988(昭和63)年秋。宮中で陛下は、下血の始末をする侍医に向かい、首から下は自分の体ではないかのような平然とした表情で「伊東、今日は満月だよ。その障子を開けてごらん、綺麗だ」と語りかけたという。
「床に伏せておられる陛下がなぜご存じなのか、最近まで不思議に思っていたんですけど、仕人さんが大きな鏡を持って来て、満月を反射してお見せしていたようなんです」
一般には知られていない、そんな昭和天皇の意外な姿、日常の姿を元侍医の目で綴った『昭和天皇 晩年の想い出』を昨年出版した。
「天皇家に関しては、きらびやかな生活をしているといった誤解がまだ多い。『国民とともにある』という考え方を貫かれた昭和天皇を尊敬する一人の人間として、自分の経験を残しておく必要があると思ったんです」
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