強度近視は,わが国の失明原因の上位を占める病態で,様々な網脈絡膜疾患を合併する。なかでも近視性脈絡膜新生血管(mCNV)は重篤な視力障害を生じる合併症のひとつである
mCNVの診断は,光干渉断層計(OCT)やOCTAの登場により容易になった。しかし確定診断には造影検査が必須である
mCNVの治療は抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法が主流であり,短期経過は良好であるが,長期では新生血管周囲に網脈絡膜萎縮を生じ視力が低下する
近視の本態は眼球形状の変化と言われており,本来,球状である眼球が強度近視眼では大きく逸脱している。近視の進行に伴い眼軸も延長するが,病的近視では眼球後部が突出し,後部ぶどう腫を形成するとともに強膜が菲薄化することが特徴である。このため,網膜や視神経が過剰に進展し,視覚障害を起こすと考えられている。後部ぶどう腫は,これまで統一された具体的な定義はなかったが,近年,眼球後部に存在する異なる曲率を持った突出とされた。また,大野らは異なる曲率を持たずに鼻側に偏って突出した形状変化も後部ぶどう腫の定義に含めると報告している1)。
強度近視は国際的に統一された分類はなく,近視の程度や眼底所見,視機能障害による分類など様々なものが存在する。また,強度近視はわが国の失明原因として常に上位を占める疾患で,2006年の厚生労働科学研究班の報告によると,視覚障害の原因のうち,強度近視は緑内障,糖尿病網膜症,網膜色素変性症,加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)に次いで第5位になっている。また失明の原因では緑内障,糖尿病網膜症,網膜色素変性症に次いで第4位であり,強度近視はわが国の重要な失明原因であることがうかがえる。
強度近視眼において重篤な視覚障害を引き起こす疾患には,黄斑円孔網膜剝離や黄斑部萎縮(網脈絡膜萎縮)など様々なものがあるが,なかでも近視性脈絡膜新生血管(myopic choroidal neovascularization:mCNV)は,自然経過では高度の視力低下をきたすことが知られている。現在ではmCNVに対する抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)療法が短期では良好な成績を示しているが,長期ではCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じ視力は低下していく。mCNVは強度近視の約5~10%に発症する疾患で,AMDと比較して若年者に発症し,CNVは網膜色素上皮上に存在する2型CNVの形をとる。AMDのCNVより小型で,滲出性変化も軽度であることが多い。mCNVの正確な病態はいまだ解明されていないが,眼軸長延長に伴うBruch膜の断裂(lacquer cracks)や,脈絡膜循環障害が発症に関与すると報告されている。自然軽快は稀で,無治療の場合,多くは黒い色素沈着を伴う瘢痕病巣(Fuchs斑)となり周囲に広範な網脈絡膜萎縮を形成し,高度の視力障害をきたす(図1)。既報によると,mCNVは自然経過では10年後に96.3%の症例でCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じ,視力が0.1以下になるとされている(図1)2)。