薬剤性腎障害は,薬剤の投与により,新たに発症した腎障害,あるいは既存の腎障害のさらなる悪化を認めた場合,と定義され,ここでの腎障害は慢性腎臓病,または急性腎障害(acute kidney injury:AKI)に準じたものだが,糸球体濾過量の低下だけでなく尿所見異常やネフローゼ症候群等も内包する。
実態調査によると腎臓専門医施設における全入院の0.935%が薬剤性腎障害であったとされる1)。外来で対応する程度の軽症の腎機能障害まで加えると,その発生率はさらに多いと予想される。診断のポイントとしては,被疑薬の開始時期(造影剤や処方薬以外の市販薬を含む)を問診,お薬手帳,カルテなどから同定する。この際に腎機能に対して投与量の調整がされているかどうかも大切である。腎機能別の投与量については,膨大な量の薬剤とそれぞれの腎機能別の投与量の暗記は不可能なので,ポケットブックなどの成書や「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」2),LINE®のBOTで「CKDオンライン」3)なども開発されているので,診療の際にはぜひこれらをポケットやスマートフォンに忍ばせて頂きたい2)。外来診療で遭遇する頻度の高い薬剤としては,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs),レニン-アンジオテンシン系(renin-angiotensin system:RAS)阻害薬,利尿薬,下剤,抗ウイルス薬,抗菌薬などが挙げられる。入院診療や専門外来ではこれらの薬剤に加えて,造影剤,抗癌剤,免疫抑制薬などが挙げられる。
薬剤性腎障害の発症機序の分類の理解は治療に関連するため重要である。①中毒性腎障害,②アレルギー・免疫学的機序による腎障害,③薬剤による電解質異常,④腎血流量減少,⑤薬剤による結晶形成性の尿細管閉塞性腎症,⑥その他,がある。
それぞれの代表的な薬剤としては①アミノグリコシド系抗菌薬,白金製剤,ヨード造影剤,バンコマイシン,ST合剤,リチウム製剤など,②あらゆる薬剤(特に多いものでNSAIDs,H2受容体拮抗薬,抗菌薬),ブシラミン,プロピルチオウラシル,③ビタミンD製剤やカルシウム(Ca)製剤による高Ca血症による腎障害,利尿薬や下剤による慢性低カリウム(K)血症による腎障害,④NSAIDsとRAS阻害薬(両者またはそのうちの片方を内服している状態での食欲低下や下痢による脱水も容易に腎障害を生じる),⑤メトトレキサート,抗ウイルス薬(アシクロビル),⑥スタチンによる横紋筋融解症,などが挙げられる。これらの薬剤のうちNSAIDsや一部の抗菌薬は発症形態が複数あるものもあるので,1対1で対応していないことに留意して頂きたい。その他,尿所見にはまったく異常を伴わない腎血流障害からネフローゼ症候群を呈するものまで様々である。
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