高齢者肺炎は,免疫能や嚥下機能の低下などによって生じる
高齢者肺炎は,症状や検査所見が非典型的である
予防を講じても繰り返す場合には,終末期としてとらえる必要があるため,希望する治療やケアについて事前に十分な協議が必要である
わが国の死因統計において,肺炎は2011年に脳血管障害を抜いて悪性腫瘍,心疾患に次ぐ第3位となった。しかし,2017年には肺炎は第5位に下がり,第3位には脳血管障害,第4位には老衰が位置した(表1)1)。この結果は,単純に肺炎の予後が改善したためと解釈することはできない。高齢者の肺炎を老衰と判断する医師も一定数存在し,また肺炎と老衰を区別する明確な基準もない2)。そのため,肺炎による死亡を老衰ととらえる例が増えている可能性も潜在している。いずれにしても,高齢になるにつれ死因に占める割合が有意に増加するのは,悪性腫瘍や心疾患,脳血管障害ではなく,肺炎と老衰である。世界にも前例のない速さで高齢化が進み続けるわが国において,高齢者肺炎を改めて考察する必要がある。
高齢者における肺炎の成立機序は,図1のように表すことができる3)。高齢者は複数の基礎疾患を有している場合が少なくない。加齢自体が免疫能を低下させるが,糖尿病の罹患や慢性炎症性疾患に対する免疫抑制薬の使用は,それをさらに低下させる。一方で,脳血管障害や認知症の罹患率も増加する。脳血管障害患者の30~65%,認知症患者の約45%が嚥下障害を有すると報告されている4)。基礎疾患を問わなくとも,施設入所中の高齢者の約2/3,病院入院中の高齢者の約1/3に嚥下障害があるとも推測されている。また,睡眠薬などの意識レベルを低下させる薬剤は誤嚥のリスクを上げることが知られており5),胃酸分泌抑制薬も腸内細菌が誤嚥を誘発することが報告されている6)。
誤嚥を引き起こすリスクが高齢者肺炎の主な病態と考えられているが,誤嚥の事実を目撃することは難しく,嚥下造影などで確認された嚥下機能障害が必ずしも肺炎に直結するとも限らない。したがって,誤嚥性肺炎を確実に診断することはきわめて困難であるが,加齢に伴い臨床的に誤嚥性肺炎と診断される割合は増加すると考えられている7)。また,嚥下機能が障害されると,摂食不良から体重減少や栄養障害を引き起こし,免疫能の低下に繋がるなど各因子は複雑に関連している。嚥下機能障害は,脳血管障害の急性期や高炎症反応を呈する時期を除き,一般的に不可逆性である8)。