SUMMARY
ACPの実践において,その本質を理解していないと,時に侵襲的な,あるいは役に立たないACPとなってしまい,かえって患者を苦しめてしまう。患者のためのACPであるということを常に意識しておくことが重要である。
KEYWORD
ACP(人生会議)
自らが望む人生の最終段階における医療・ケアについて,前もって考え,
医療・ケアチーム等と繰り返し話し合い共有する取り組み。(厚生労働省ホームページより)
PROFILE
2008年札幌医科大学卒業。勤医協中央病院で初期研修を行った後,勤医協中央病院,道東勤医協釧路協立病院などで家庭医療を学ぶ。現在は勤医協中央病院総合診療センター副センター長。
POLICY・座右の銘
自分に優しく,他人にもっと優しく
「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)」について厚生労働省は2018年11月30日,愛称を公募した結果,「人生会議」に決定したことを発表した。ACP,人生会議という言葉が身近なものとなりつつある。
「ACPは良いものだ」という空気が漂う一方,むしろACPによって患者が苦しめられる「ダークサイド」があるということも認識しておく必要がある。
80歳男性 脳梗塞後,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患。認知機能は問題なし。妻,娘と3人暮らし。
1年前に肺炎で入院後,ADLが低下し通院困難となったため訪問診療を開始した。
その際に偶然膵腫瘍が指摘された。本人にも伝えたところ,精査を希望しなかったため,様子を見ることになっていた。消化器科から,悪性である場合,予後は短くて1年程度と説明されていた。
もともと訪問診療の主治医だった医師が異動することになり,自分が初めて訪問することになった。元主治医からの申し送りには,「いまだにDNAR(心肺蘇生を行わないこと)の確認ができていません。膵腫瘍の指摘から1年経つので,早急に確認をお願いします」とあった。
初回訪問当日,診療所スタッフからも「絶対今日DNARをとってきて下さいね」と念を押された。「はじめまして」の挨拶のあと一通り診察してから,「ところで,急に具合が悪くなったときのことについて,これまで相談していましたか」と切り出すと,みるみる目がつり上がっていき,「お前もまたその話をしに来たのか!前の医者も毎回その話ばかりで,早く死ねと言っているのか!」と,以後一切話をしてくれなくなった。
その後,娘さんから「本人はそういう話をするとつらいみたいなので,あまりそういう話はしないでほしいと前の先生にもお願いしていたのですが,やっぱり決めなくちゃだめでしょうか……」と非常に困った顔で言われてしまった……。