過活動膀胱(overactive bladder:OAB)は,「尿意切迫感(急に起こる我慢しがたい強い尿意)を必須症状とし,頻尿・夜間頻尿を有し,時に切迫性尿失禁を認めるもの」と,2002年に定義された症状症候群である。わが国の疫学調査で40歳以上の男女の12.4%に認めたことから,現在約1000万人の患者が存在し,約半数が切迫性尿失禁を伴うと推定される。その病態は蓄尿時の膀胱不随意収縮であるが,病因は神経因性と非神経因性にわけられる。神経因性には脳血管障害,認知症,パーキンソン病,多系統萎縮症,脊髄損傷,頸椎症などの上位中枢神経障害があり,頻度は20%未満である。残りは非神経因性で,加齢,下部尿路閉塞,骨盤底筋脆弱化,特発性が含まれる。
上記の病態,症状を念頭に置いた詳細な問診で診断は可能である。なお,類似の症状を呈する疾患(膀胱癌,前立腺癌,膀胱結石,間質性膀胱炎,細菌性膀胱炎などの下部尿路炎症性疾患)を除外する。尿検査,尿細胞診,血清前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)検査などを必要に応じて行う。症状の評価には過活動膀胱症状質問票(overactive bladder symptom score:OABSS)が有用である。また,排尿時刻,1回排尿量,尿失禁時刻を記録する排尿日誌(3日間程度)をつけてもらうと病態を把握しやすい。身体所見では,男性の前立腺肥大症,女性の膀胱瘤などの骨盤臓器脱と腹圧性尿失禁(咳や運動による腹圧上昇時の尿失禁)の合併の有無を確認する。尿検査,腹部エコーによる残尿測定(50mL以上が有意な残尿)も行う。
OABの初期治療は行動療法と薬物療法からなる。行動療法は生活指導(過剰な水分やカフェイン・アルコール摂取の抑制),膀胱訓練(排尿を我慢して徐々に排尿間隔を延長させ膀胱容量を増加させる),骨盤底筋訓練(肛門挙筋や尿道・肛門括約筋を意図的に反復収縮する)からなり,2~3カ月継続することで60~70%の症例が改善する。
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