(神奈川県 S)
【正しい測定条件の下であれば測定値は信頼できるが,精度を維持するには努力が必要】
家庭血圧計については医用の電子血圧計と同様に,承認過程で国際的な臨床評価プロトコルに沿った精度検定が行われます1)2)。ここではいずれも幅広い血圧値,たとえば収縮期血圧100mmHg台~160mmHg以上までの被験者を対象に,基準となる血圧計(現在は水銀血圧計が主ですが,「水銀に関する水俣条約」の発効に前後して,水銀レスの手動読み取り式の血圧計に置き換わると見込まれます)との差が生じないことが求められます。
ただし,集団の平均値として一般に5mmHgまでの誤差が許容されている上に,個々の血圧計と被験者の特性(高齢者,妊婦,小児など)の組み合わせによって,より大きな差が生じることもあります。そのため,血圧計は販売後でも,第三者である研究者が改めて臨床評価を行い学術報告しています。海外には,これらの結果をまとめて格付けまで施したウェブサイトがあります3)。国内では日本高血圧学会が,独自の評価は加えない形で血圧計に関する客観的な臨床評価情報・連絡先をウェブサイト4)に取りまとめて掲載しています。
一方,様々な家庭血圧計の9割で手動加圧式血圧計より10mmHg以上高値だった場合は,申し上げにくいのですが,家庭血圧計ではなく従来の血圧計,さらには血圧測定の注意点に言及しなければなりません。
まず,血圧計は決して長期間,精度を保てる機器ではありません。詳細は文献に譲りますが5)6),特にカフやゴム管は消耗品で,数年使い続けると測定精度が明らかに低下します。水銀血圧計やバネ式アネロイド血圧計は届出のみで販売してよい(薬機法上のクラスⅠ医療機器で,聴診器と同じカテゴリーです)ため,メンテナンスもほとんど行われていない上に,機器の劣化が少しずつ進むため,精度低下そのものに気づかれにくい現状にあります。
また,血圧測定の際は,まず収縮期血圧を超えて十分にカフ内を加圧し(予想値の20〜30mmHg上まではほしいところで,逆にその程度の加圧が短時間行われる程度でしたら疼痛などによる血圧上昇はごく弱いものと考えられます),その後に毎秒2~3mmHgの速度で減圧する必要があります。そうしないと,収縮期血圧値を示すコロトコフ音の第1音を誤って相当に低い値で判定してしまうことがあります。
なお,聴取そのものが検者の聴力に依存するため,血圧測定は若い人が行ったほうが正確とされています。しかし,ガイドラインに従った血圧測定手技を身につけている米国の医学生は,159人中わずか1人だったという最近の調査もあり7),残念ながら血圧測定自体,人間よりも機械に任せたほうが正確な場合も少なくありません。
もちろん家庭血圧測定にも様々な留意点があります。特に,安静下での待ち時間が不十分な測定によって,本来よりも高い値に基づいた不要な投薬が行われている場合もありましょう。家庭血圧計は本来,「医師の指導のもと,在宅での自己血圧測定に使用するもの」と省令に定められているように,医師が適切に測定方法や管理方法を指導しなければならない機器です。ガイドラインにあるような正しい血圧測定条件が,外来でも家庭でも必要です。
なお,家庭血圧計は売り切りの家電製品に近く,耐用期限が定められています(最大3万回・5年など)。メンテナンスの義務はないにしても,外来で年に1度くらいは患者の家庭血圧計を直接動作確認し,併せて自宅での血圧測定条件のチェックを行うとよいでしょう。
【文献】
1) International Organization for Standardization: ISO 81060-2:2013.
[https://www.iso.org/standard/57977.html]
2) Stergiou GS, et al:Hypertension. 2018;71(3): 368-74.
3) Medaval. 2015. [http://medaval.org/]
4) 日本高血圧学会. [http://www.jpnsh.jp]
5) Asayama K, et al:Hypertens Res. 2016;39(4): 179-82.
6) 浅山 敬, 他:日医会誌. 2016;145(3):511-5.
7) Abbasi J:JAMA. 2017;318(11):991-2.
【回答者】
浅山 敬 帝京大学医学部衛生学公衆衛生学准教授