心房細動(AF)例にPCIを施行後の抗血栓療法をめぐり、近年、ワルファリンではなくDOACを用いる、あるいは併用する抗血小板療法をアスピリンを含むDAPTではなく、P2Y12阻害薬単剤とする試みが行われている。8月31日からパリで開催された欧州心臓病学会では、今回、エドキサバンを用いたENTRUST-AF PCI試験が報告された。しかし必ずしも「ワルファリン+抗血小板薬2剤併用(DAPT)」を上回る「DOAC+P2Y12阻害薬」併用の優越性は示されなかった。Andreas Goette氏(マクデブルク大学、ドイツ)が3日のHOTLINEセッションにて報告した。
ENTRUST-AF PCI試験の対象は、PCI施行後5日間以内で、かつ抗凝固療法の適応があるAF 1,506例である。CHA2DS2-VAScスコア中央値は4.0、HAS-BLEDスコア中央値は4.0だった。虚血性心疾患の内訳は、急性冠症候群が52%、安定冠動脈疾患が48%だった。またPCI施行前から65%強が、経口抗凝固薬を服用していた(薬剤の詳細は不詳)。
これら1,506例は、「DOAC+P2Y12阻害薬」群(751例)と「ワルファリン+P2Y12阻害薬・アスピリン [最短でも1カ月間](DAPT)」群(755例)にランダム化され、盲検化されず1年間追跡された。DOACはエドキサバン60mg/日を用い、減量の適応がある場合は30mg/日とした。P2Y12阻害薬は原則としてクロピドグレルとされ、9割以上がクロピドグレルを服用した。
その結果、1次評価項目である「ISTH分類大出血/処置を要する非大出血」の発生率は、「DOAC+P2Y12阻害薬」群で20.7%/年、「ワルファリン+DAPT」群は25.6%となり、「非劣性」は確認されたものの(p=0.001)、「優越性」は認められなかった(p=0.1154)。カプラン・マイヤー曲線を見ると、両群間の差が生じたのは試験開始120日を過ぎた時点からだった。
また、探索的評価項目として設定された、「心血管系死亡・脳卒中・全身性塞栓症・心筋梗塞・血栓確認ステント血栓症」の発生率も、「DOAC+P2Y12阻害薬」群は7.3%/年で、「ワルファリン+DAPT」群の6.9%と有意差はなかった(ハザード比 [HR] :1.06、95%信頼区間 [CI]:0.71-1.69)。心血管系死亡、脳卒中、全身性塞栓症のデータは示されなかったが、「心筋梗塞」のHRは「DOAC+P2Y12阻害薬」群で1.27(95%CI:0.74-1.27)、「血栓確認ステント血栓症」も1.34(同:0.47-3.84)となっていた。
この結果に対し、指定討論者であるRenato D. Lopes氏(デューク大学、米国)は、この試験デザインでは、「DOAC+P2Y12阻害薬」群における出血リスク低下傾向が、「ワルファリンではなくDOACを用いた」結果なのか、「アスピリンを併用しなかった」結果なのか判然としないと指摘。また後者の可能性にも関与するが、「最低1カ月」の服用が義務付けられたアスピリンが、その後、どれほど服用されていたかのデータが必要だと指摘した。
本試験のスポンサーは、Daiichi Sankyo Europe GmbHである。また報告と同時にLancet誌にオンライン公開された。