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〈J-CLEAR主催座談会〉高血圧治療ガイドライン2019[J-CLEAR通信(106)]

No.4983 (2019年10月26日発行) P.28

司会: 桑島 巖 (東京都健康長寿医療センター顧問/J-CLEAR理事長)

冨山博史 (東京医科大学循環器内科教授/J-CLEAR評議員)

石川讓治 (東京都健康長寿医療センター循環器内科副部長)

三戸麻子 (国立成育医療研究センター母性内科)

登録日: 2019-10-25

最終更新日: 2019-10-23

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総論

【桑島】まず総論として,今回の「高血圧治療ガイドライン2019」は,システマティックレビューを多く用いています。また,前回まではなかったクリニカルクエスチョンを取り入れています。臨床医が日常診療でどのような疑問を持っているかということをいくつかの項目にわけて質問し,それに対してレビューという形で回答し,レビューに対してそれぞれのエビデンスレベルに応じたランク付けもしています。
ガイドラインの作成過程でほかにも何か,議論になったことはありますか。

【冨山】今の点が一番大事だと思います。どうしてもクリニカルクエスチョンになりづらい部分もあり,今回すべてがカバーできているわけではありませんが,日常的に疑問に思っている部分について回答しています。実際の診療にあたっては,まだ抜けている部分もあることに注意しなければいけないと思います。

【桑島】今回の作成は,米国のSPRINT試験の結果が発表され,米国心臓協会(American Heart Associ-ation:AHA),欧州高血圧学会(European Society of Hypertension:ESH)がそれぞれガイドラインを発表したというタイミングでした。SPRINTの発表がかなり影響していると思います。SPRINTは,今までと特に測定環境が異なるので,どのように扱うか議論になったのではないでしょうか。
【石川】今回,AHAのガイドラインで降圧目標を140mmHgから130mmHgまで下げて,ESHもそれを追従した形になりましたが,特に高齢者が多く,欧米とは違い家庭血圧に重点を置いているわが国で,SPRINTにそこまで追従してよいのかということが非常に注目されました。

【桑島】女性の高血圧も問題になっており,日常診療で悩むことも多いです。今回,従来と違う点は何かありますか。

【三戸】従来の妊婦に使われている降圧薬ではなく,もう少し幅を広げて使えるような記載内容になっています。その点が一番大きいかと思います。

高血圧の定義

【桑島】今回の基本的な方針としては,高血圧の定義は従来の2014年と変わっていませんが,降圧目標値は下がりました。高血圧の定義は,SPRINTを重視すれば変わってもよいはずですが,変わらなかった理由は何でしょうか。

【冨山】わが国で実施した自動診察室血圧(auto-mated office blood pressure:AOBP)に関する調査の結果,AOBPは外来血圧に近いことが日本高血圧学会誌で報告されました。わが国は家庭血圧を重視するので,AHAのようにならなかったのではないかと思います。

【桑島】 SPRINTでは厳格降圧群<120mmHgと標準降圧群<140mmHgが目標値です。家庭血圧に匹敵する値はいくつくらいでしょうか?

【冨山】それは一応5を引くという形になっています。

【桑島】高血圧の定義も米国では≧130mmHgとしているのは,AOBPだからでしょうか。

【冨山】いいえ,たとえば初期治療計画のところで2014年版のガイドラインは140mmHg未満にまったく言及していなかったのに,今回は130mmHg以下について記載しています。

【桑島】今回は「高値血圧」という区分を入れていますからね。意識喚起しようということですね。

【石川】高血圧の診断基準を130mmHgに下げてしまうと,高血圧の人があまりにも増えすぎてしまうという,社会的,経済的な観点も大きいのではないかと思います。

【桑島】 Ⅰ度の高血圧が≧140/90mmHgです。それに相当する家庭血圧は≧135/85mmHg。臨床現場では本当にこの通りやっているのでしょうか。

【石川】一般臨床に浸透するまではもう少し時間がかかります。臨床現場の先生にしたら,まだそこまで思い切れていないのが現実かと思います。

【桑島】高値血圧が130/80mmHg以上という点は,一般の人もこの値から注意して下さいということですよね。
家庭血圧の測定方法で,何か新しい話がありましたか。また家庭血圧の位置付けは。

【石川】高血圧の診断において,家庭血圧のほうが外来血圧よりも予後予測能がいいことは多くのデータで報告されていますが,降圧治療において,外来血圧と家庭血圧のどちらを優先して治療したほうがいいのかというデータはありませんでした。そのため,外来血圧を指標とした降圧治療と家庭血圧を指標とした降圧治療を比較したメタ解析を行っています。外来血圧を家庭血圧と同じ目標血圧値に治療した場合は,白衣効果も治療対象になるため,24時間自由行動下血圧(ambulatory blood pressure:ABP)は,外来血圧を指標に血圧コントロールした方が低くなります。しかし,外来血圧は140mmHg, 家庭血圧は135mmHgを目標に降圧目標値に5mmHgの差をつけた研究では,家庭血圧を指標とした治療のほうがABPが低かったと記載されています。そのため,家庭血圧を指標とした降圧治療を推奨するとガイドラインには記載されています。

【冨山】 Hypertension誌にも,家庭血圧をしっかりコントロールしたほうが良い結果が出ています。あとはわが国の現状として,家庭血圧を測っている患者が大変多いので,当然の方向だと思います。

【桑島】自由行動下血圧測定(ambulatory blood pres-sure monitoring:ABPM)は,夜間血圧にかなり意味があると思います。夜間血圧についての議論はなかったですか。

【石川】 2014年版と大きな変わりはありませんでした。夜間血圧が高いことが疑われる患者に対してABPMを推奨するという記載になっています。

【冨山】今回は血圧変動をどのように評価するかは,明確には出ていません。パラメーターがいくつもありすぎるので,絞りきれなかったのだと思います。

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