ヒトの空腹時の正常血糖は90mg/dL前後であることが多い。しかし,妊婦ではこれが70mg/dL前半に低下し,正常下限は約3mmol/L(54mg/dL)と言われる。
妊娠13週くらいに膵臓がインスリンをつくりはじめ,血糖を管理しなければ胎児自体からのインスリン過剰産生で胎児が巨大化することになる。胎児が巨大化すると出産が困難となり,母子ともに生命の危険に瀕することになる。巨大児は出生体重4kg以上をいう。
ヒトが進化する過程で,妊娠中に血糖が上昇する遺伝子を持っていると淘汰されているはずである。妊婦では血糖は低下するはずであるが,そうでない場合には介入が必須である。
糖尿病は血糖(血中ブドウ糖濃度)が上昇し放置すると問題が起こるので,病気として加療が必要な状態である。妊婦の場合は問題の所在が異なり,少しでも血糖が高いと問題が起こるので,一般的な糖尿病の診断基準は使えない。
妊娠中期に50gブドウ糖チャレンジ試験を行う。事前の食事制限は必要なく,50gのブドウ糖を服用して1時間後の血糖値を測定する。140mg/dL以上を陽性とし,陽性妊婦に対して75g経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose tolerance test:OGTT)を実施する。75gOGTTで空腹時血糖値92 mg/dL以上,1時間値180mg/dL以上,2時間値153mg/dL以上,のいずれか1つを満たす場合に診断される。
まず,空腹時血糖は70mg/dL前半にする。高くても94mg/dL以下がよい。食後(食べ始めて)2時間での血糖値は119mg/dL以下とする。そのためには,毎食前に超速効型インスリン,夕食後に持効型インスリンデテミルを用いる。
食前血糖をしっかり下げることが重要である。非妊娠状態では空腹時血糖は90mg/dLで,食後2時間は50mg/dL上昇した140mg/dL程度である。妊婦は空腹時が70mg/dL程度であれば,食後2時間は50mg/dL上昇した120mg/dL程度を容易に達成できる。また,夜間にしっかりと血糖を低下させれば内因性インスリンも余裕が十分となり,超速効型インスリンの使用量を増やさずにすむ。筆者の経験では,補食は行ったことはない。
持効型インスリンデテミルは,就寝前に用いると眠ってしまい忘れるので,夕食後の血糖測定時の使用が望ましい。
妊娠糖尿病でまず血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose:SMBG)を実施してインスリン導入の必要性を評価する。基準を満たすには1日4回の測定でよいが,一般的には毎食前後の1日6回の測定をすることが多い。妊娠糖尿病でSMBGを行う場合の保険診療の算定基準は,学会で決めている診断基準と合致していないが,SMBGを躊躇すべきではないであろう。自己血糖記録用紙には血糖とインスリン使用単位数を記載してゆく。食後2時間血糖が高値であると補正量の追加インスリンを用いたくなるが,超速効型インスリンの効果が切れていないうちは追加しない〔インスリンポンプ療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)ではinsulin on board(IOB)表示があり,参考とする〕。
妊婦や授乳中の場合は,経口血糖降下薬を用いない。
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