【水疱性角膜症に対する角膜移植の進化】
水疱性角膜症は,角膜内皮障害により角膜に浮腫を生じ混濁をきたす疾患であり,唯一の治療方法は角膜移植である。
角膜移植では全層角膜移植が世界で約100年前から行われ,ドナーとホストの角膜全層を各々円形に切除し,端端縫合または連続縫合で縫い合わせる術式である。しかし,術中の眼内組織の脱出や脈絡膜出血,術後の拒絶反応や角膜不正乱視,眼球の脆弱性など,問題点が多く存在している。
近年,障害部位のみを移植する角膜パーツ移植が確立されるようになり,角膜内皮障害に対しては角膜内皮移植が行われ,Descemet's stripping automated endothelial keratoplasty(DSAEK)が現在スタンダードな術式である。この術式はホストの角膜内皮を剝離し,ドナー角膜から厚さ150μm前後の実質深層と角膜内皮の移植片を作製し,前房内に挿入し空気で接着させる。DSAEKは全層角膜移植と比較し,切開創が小さく術中の合併症が生じにくく,術後眼球強度が保たれ,乱視が少なく,拒絶反応の危険性が低いことが利点として挙げられ,現在,水疱性角膜症に対する治療の第一選択となっている。
しかし,手技は進化しているものの,わが国では深刻なドナー不足が続いている。角膜移植全体のうち,国内ドナーを用いた角膜移植の割合は半数を下回っており,海外ドナーの割合が増加している状況である。解決策として角膜再生医療の発展が待たれる。
【解説】
長井隆行 神戸大学眼科病院講師