SUMMARY
予防医療が対象となるのは基本的に無症状の患者である。無症状の人を対象とする予防医療では利益が害を上回るという科学的根拠が特に重要であるが,科学的根拠に基づいた予防医療を実践するのが難しい状況が存在する。予防医療を実践する上で直面する臨床倫理について考えていく必要がある。
KEYWORD
予防医療
予防医療も当然であるが「医療」であり,科学的根拠の重要性,そして意思決定の共有や利益相反といった臨床倫理の概念について再認識する必要がある。
PROFILE
1993年長崎大学卒業後,国立東京第二病院初期研修医,95年Beth Israel Medical Center, NY内科研修医,98年NYUプライマリ・ケア内科フェロー,2000年名古屋大学総合診療部医員,01年同大大学院入学,05年川崎幸病院内科,09年国立病院機構長崎医療センター総合診療科を経て,16年4月より現職。
POLICY・座右の銘
専門職主義(プロフェッショナリズム)
予防医療とは文字通り,病気や怪我を予防するための医療のことであるが,3つのレベルに分類する考え方がある(図1)1)。人が誕生して死亡する間に何か病気が起こるとしたら,まず,どこかで目に見えないミクロのレベルで病理学的変化が起こる。そして,その病理学的変化が進行すると何かしらの症状が現れる。予防医療のレベルのひとつの考え方として,病理学的変化が起こらないようにするのを一次予防と呼ぶ1)。予防接種や生活習慣の行動変容のための動機づけ面接の実施,妊娠可能な女性に対する葉酸サプリメントの処方が一次予防の例として挙げられる。
病理学的変化の後,症状が発生する前に早期発見し,介入することを二次予防と呼ぶ1)。いわゆるスクリーニング,検診がこの二次予防に当たる。
そして症状が発生した後,病気の再発を防ぐことを三次予防と呼ぶ1)。本連載では,無症状の人に対して介入をする一次予防と二次予防に焦点を当てる。