特段の病歴や症状を伴わない失神や軽度の頭部外傷に対して救急部門におけるルーチンの頭部CTは不要【米国救急医学会】
Avoid CT of the head in asymptomatic adult patients in the emergency department with syncope, insignificant trauma and a normal neurological evaluation.
(American College of Emergency Physicians:October 27, 2014)
失神,取るに足らない軽傷で受診し,神経学的評価が正常な無症状の成人患者に対しては救急部門での頭部CTを避けること
(米国救急医学会:2014年10月27日)
失神や前失神のために救急外来を訪れる患者は多く,脳血管障害等を想定して頭部CTが実施されることは少なくない。しかし,その大多数で重篤な疾患が見つかるわけではないとして,Choosing Wiselyでは,ルーチン(一律)に頭部CTを実施しないように勧めている。
「5つのリスト」に記載された根拠文献をあたってみると,少し古いが,Piresらの後ろ向き調査1)を読んでみよう。デトロイトの2つの教育病院で1994~98年の5年間に失神で救急外来を受診した患者が649例,そのうち283例で頭部CTが実施されたが,有意の所見が得られたのは5例,そのすべてで脳血管障害やてんかんを示唆する何らかの随伴症状があったとのことである。
同様に,Giglioらによる比較的小規模の後ろ向き調査2)でも128例の失神患者のうち48例で頭部CTが実施され,1例で後頭部の血管病変が見つかっている。また,この調査では24例で症状と無関係の病変が指摘されたとのことである。
前向き調査では,2007年,ボストンのベスイスラエル病院からのコホート調査3)が興味深い。持続性の意識障害や外傷歴のある患者を除外した293例の成人失神患者のうち113例に頭部CTが実施され調査対象とされた。5例で所見があった(くも膜下出血2例,脳出血2例,脳血栓1例)が,事後の調査で2例に神経学的所見,1例で新規発症の頭痛があり,残る2例でも,神経学的所見はなかったものの,頭部裂傷や眼窩溢血斑など頭部外傷を思わせる所見があった。
同様に,2009年,イェール大学での,失神で入院となった65歳以上の患者2106例についてのレビュー4)がある。ほとんど全例に実施された心電図や心筋酵素などのほか,63%の患者に頭部CTが実施されていたが,心筋酵素,頭部CT,心エコー,頸動脈エコー,脳波をすべて合わせても,診断確定に寄与した例が5%,診断の助けになった例が2%で,診断寄与例1例当たりの頭部CT検査費用は2万4881ドル(約274万円)であった。
これらのデータから,失神で受診した患者にルーチンに頭部CT検査をオーダーすることは無駄であり,失神についてだけでなく,脳血管障害やてんかんに関連する可能性のある他の病歴や神経学的徴候などに注意を向けることのほうが,より重要であるとの教訓を得ることができる。
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