安静時における室内気吸入下の動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下の状態(=呼吸不全)が1カ月以上持続する病態である。動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が45Torr以下のⅠ型呼吸不全と45Torrを超えるⅡ型呼吸不全とに分類される。治療の主体は在宅酸素療法であり,Ⅱ型呼吸不全の場合には換気補助療法も併用される。
呼吸困難が代表的な症状であり,特に労作時に顕著で,進行すると安静時にも認められる。ただし,緩徐に進行した場合,訴えが乏しいこともある。Ⅰ型呼吸不全の浅速呼吸など呼吸パターンの変化がみられ,重度の呼吸不全ではチアノーゼを呈する。Ⅱ型呼吸不全では発汗,頻脈,hot hand(手の温もり),起床時の頭痛,不眠,夜間頻尿,羽ばたき振戦などがみられる。
動脈血ガス分析を行い,Ⅰ型・Ⅱ型呼吸不全の確認とともに酸塩基平衡を評価する。腎による代償機構が働いているか,慢性経過か急性経過かなどが重要な指標となる。パルスオキシメーターによる酸素飽和度(SpO2)も簡便な指標となるが,体動や頻呼吸などの影響を受けるほか,発熱や貧血などで測定値が変動することに注意が必要である。夜間の高二酸化炭素血症の評価には,経皮二酸化炭素分圧(tcpCO2)モニターが有用である。
第一に呼吸不全の原因(基礎疾患)に対するアプローチが必須である。PaO2>60Torr,SpO2>90%(Ⅱ型呼吸不全の場合は88%)を目標とした酸素投与が基本的対処となる。CO2ナルコーシスを恐れるあまり,酸素投与を控えることがあってはならない。
主観的な症状である呼吸困難と呼吸不全の程度とは必ずしも一致しない場合があることに留意しながら治療を組み立てる必要がある。酸素療法には一般的に禁忌はないが,漫然と酸素投与を行って換気状態の変化への注意を怠ると,非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)などの換気補助療法の導入が遅れる危険性がある。痰や誤嚥などによる窒息,CO2ナルコーシスなど,各種の病態に常に注意を払う。
残り1,541文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する