脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)は,脳内に動脈―静脈シャントを有し,流入動脈,ナイダス,流出静脈で構成される疾患である。病巣には毛細血管を欠き,流出静脈に圧負荷がかかることにより,皮質下出血や痙攣にて発症することが多い。特に,小児における皮質下出血の際には第一に疑うべき疾患であるが,成人にも多く脳血管造影により確定診断をつける必要がある。
多くが脳内出血,くも膜下出血,痙攣発作で発症し,比較的若年者の場合は特に疑うべき疾患である。脳血管造影所見による分類が治療方針において重要である1)。
再出血のリスクは年間4.5%と言われており,可能であれば積極的な治療を念頭に置く。しかしながら,根治が難しい例も少なくない。出血源と思われる脳動脈瘤や,拡張した静脈のみを処理して再出血のリスクを軽減させることも行われている。
AVMの治療は原則的に,脳血管内治療,外科的摘出術,放射線治療のいずれか,もしくはそれらを組み合わせて治療戦略を練る。脳血管内治療ではマイクロカテーテルを流入動脈に挿入してナイダスの直前から塞栓を行うが,コイルもしくは液体塞栓物質であるOnyx,NBCA(オフラベル)などを用いることが多い。この塞栓術のみでAVMが完治するかはまだ明らかとなっておらず,Onyxの使用は,わが国では外科的摘出術の前処置としてのみ認可されている。3cm以下のAVMに対しては放射線治療であるガンマナイフ治療の有効性が確認されているが,病巣消失までに時間を要することも念頭に置く必要がある。
最近は,脳血管内治療と開頭手術が同時に可能であるハイブリッド手術室が広まりつつあり,AVMの手術においてはその有用性が期待される。
治療方法は出血例と同様であるが,前述したように,さらに慎重に適応を吟味する必要がある。「脳卒中治療ガイドライン2015(追補2017)」では,非出血例のSpetzler-Martin分類1)のGrade ⅣおよびⅤのAVM(大型で深部)は保存的治療を推奨する記載がある。部分的に塞栓術を行ったあとにガンマナイフを施行することで予後を向上させたという報告もあるが2),2014年に報告された前向きランダム化試験(ARUBA試験)では,外科的治療群よりも内科的治療群の成績が良く,途中で研究が中断されている3)。このことからも,非出血例の治療には慎重な対応が必要である。しかしながら,非出血群でも年間出血率は2.2%であり,特に小児例においてはあまりにも保守的な治療方針は問題であろう。しかしながら,前述の日本のガイドラインでは,治療推奨度はすべてGrade Cであることがこの疾患の治療の難しさを物語っている。また,痙攣で発症した場合には,抗痙攣薬の投与が必要となる。
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