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α1-アンチトリプシン欠乏症[私の治療]

No.4998 (2020年02月08日発行) P.43

市川朋宏 (東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座呼吸器内科学分野)

杉浦久敏 (東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座呼吸器内科学分野准教授)

登録日: 2020-02-11

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  • α1-アンチトリプシン(α1-antitrypsin:AAT)欠乏症(α1-antitrypsin deficiency:AATD)は,血中の主要なプロテアーゼインヒビターであるAATの欠乏により,若年性に慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)を発症する疾患である。病因は,14番染色体上にあるAAT遺伝子(SERPINA1)の変異による常染色体劣性遺伝性疾患である。わが国ではきわめて稀な疾患(1000万人当たり2.03~2.08人)であるが,難病法に基づいて2015年7月1日施行の指定難病のひとつ(疾病番号231番)に指定されている。

    ▶診断のポイント

    指定難病の診断基準に基づいて診断を行う。自覚症状や呼吸機能検査異常,気管支拡張薬吸入後の閉塞性障害〔FEV1/FVC(1秒率)<70%〕などCOPDの診断基準に準じるが,通常のCOPDと異なるポイントとして,AATDでは55歳未満の発症であること,喫煙の影響がその発症要因からほぼ除外できること,が挙げられる。しかし,実臨床においては,非喫煙者では55歳以上でも発症することがあり,喫煙歴のない肺気腫症例では年齢によらず,また喫煙者であっても若年発症のCOPDの場合はAATDが発症の要因でないかを検索する。血液検査所見では,血清AAT濃度の低下がみられる(血清AAT濃度<90mg/dLが定義となる)。軽症(血清AAT 50~90mg/dL),重症(血清AAT<50mg/dL)の2つに分類される。AATは正常値だが,SERPINA1以外の,閉塞性換気障害の発症に関与していると推定される未知の遺伝的素因が発症に関与していると考えられる場合は,AATD類縁肺疾患とみなされるが,AATDの認定はできない。

    COPDなど,他の肺気腫をきたす疾患と比較してもAATDに特異的な症状はないが,①若年者(45歳以前)でCOPDを発症している場合,②職業性曝露のない非喫煙者で肺気腫(特に下肺野優位)を認める場合,③COPDや原因不明の肝硬変の家族歴がある場合,④皮下脂肪織炎の患者,⑤黄疸または肝酵素の上昇がある新生児,原因不明の肝疾患を有する場合にAATDを疑い,血清AAT濃度の測定を考慮する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    海外ではAATDに対してAAT補充療法が行われ,CT画像上の気腫病変進行抑制効果が報告されている。しかし,わが国ではAAT製剤は未承認であり,COPDのガイドラインに準じた管理が治療の主体になる。安定期には禁煙や有害粒子の吸入曝露からの回避を行う。その他,インフルエンザワクチンの接種と全身併存症の管理を行いつつ,呼吸リハビリテーション,気管支拡張薬を中心とした薬物療法,酸素療法,補助換気療法,外科療法などを重症度に応じて選択する。重症例では,肺移植も選択肢のひとつとなりうる。

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