ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)は,以前ヒスチオサイトーシスXと呼ばれた疾患であり,現在は組織球・樹状細胞系腫瘍に分類される。BRAFなどMAPキナーゼ経路の遺伝子にドライバー変異を生じた造血前駆細胞に由来し,ランゲルハンス細胞様の形態を示す腫瘍細胞が,骨・皮膚・中枢神経・肺・リンパ網内系臓器などに病変を形成する。周囲に炎症細胞浸潤を伴うなど炎症性骨髄系腫瘍の性状を示す。発症率は小児で100万人当たり5人,成人で2人と報告されている。
生検組織の免疫染色でCD1aまたはCD207(Langerin)陽性,S100陽性のランゲルハンス型組織球が証明されること。電子顕微鏡観察でのBirbeck顆粒陽性やゲノム解析によるBRAF-V600E,MAP2K1変異陽性は補助診断となる。
成人LCHは一般に進行が遅く,急性白血病のように早急に治療しなければ致命的となる疾患ではない。骨や皮膚など1箇所の病変(孤発性単一臓器型)で症状も軽微な場合,自然消退がありえるので経過観察でもよい。治療が必要なのは,複数の臓器に病変がある場合(多臓器型)や1つの臓器でも複数の箇所に病変がある場合(多発性単一臓器型),中枢神経病変のように1箇所でも比較的重篤な症状(尿崩症,汎下垂体機能低下症,視野・記憶障害など)を呈する場合である。
成人LCHはきわめて稀な疾患であるため大規模な臨床試験の実績はなく,10~20例を対象とした治療成績の報告が数件あるのみで,エビデンスは弱い。治療における鍵薬剤は,唯一LCHに認可されている抗癌剤ビンブラスチン(VBL)と抗炎症作用を持つプレドニゾロン(PSL)であり,この2剤を含む外来治療可能なレジメンSpecial C(通常9サイクル)を第一選択肢としている1)。大部分の症例で奏効する一方,数年以内の再燃・再発が稀でない。この場合もSpecial Cによる再治療は有効である。
Special C治療2サイクル後に奏効を認めない場合,救援療法として別のレジメンに変更して治療を継続する。1つはシタラビン(Ara-C)とPSLの2剤による入院加療レジメン(6サイクルまで)であり2),もう1つはクラドリビン(2-CdA)単剤治療(4サイクル)である3)。なお,2-CdAは小児・成人を問わず,中枢神経病変を伴うLCH例に対する有効性が報告されており,筆者らも複数の中枢神経病変を有し前治療抵抗性の症例でその効果を確認している。
残り685文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する