SUMMARY
不健康な飲酒は身体心理社会問題と関連する。不健康な飲酒のスクリーニングは利益が害を上回る根拠ある予防的介入とされる。プライマリ・ケアの現場ではハイリスクアプローチだけでなく,ポピュレーションアプローチの観点とその実装が重要である。
KEYWORD
予防医学のパラドックス
小さなリスクを負った大人数の集団から発生する患者数は,少数のハイリスク集団からの患者よりも多い。ハイリスクアプローチに加え,ポピュレーションアプローチを組み合わせて行う必要がある。
PROFILE
2006年宮崎大学卒,長崎医療センター,沖縄県立中部病院,沖縄県立病院附属北大東診療所,座間味診療所を経て2016年より現職
POLICY・座右の銘
小さなことからコツコツと
CASE:39歳男性
2月某日,季節性インフルエンザワクチン接種目的で来院した。会社で接種を勧められたのだという。特に症状はなく,喫煙歴なし。妻と10歳の娘,5歳の息子との4人暮らし。バイタルサインに問題はなかった。
Q.この男性に不健康な飲酒に関するスクリーニングを行うのは適切か?
Q.行うとすればどのように行うか?
不健康な飲酒とは,生活習慣病,悪性疾患,うつ,不眠,外傷などの身体・精神的問題に加え,飲酒運転,家庭内暴力などの社会問題を引き起こす危険性が高い飲酒行動を指す。米国立アルコール乱用・依存症研究所1)は,男性では1週間に14単位以上または1回に4単位以上,女性および65歳以上の高齢者では1週間に7単位以上または1回に3単位以上の飲酒と定義している(1単位=純アルコール量約14g。妊婦や21歳未満はいずれの量であっても不健康な飲酒とする)。
わが国では生活習慣病のリスクを高める飲酒量について,男性純アルコール40g(約2.9単位)以上/日,女性20g(約1.4単位)以上/日と健康日本21で設定されている。2013年に行われた樋口らによる全国調査(回答率58.9%,n=4153/7051)では,上記量以上を飲む男性の割合は14.3%,女性で5.9%,さらに機会大量飲酒者〔週1回以上,純アルコール60g以上(約4.3単位)〕の割合は男性で10.8%,女性で2.6%であった2)。