【感染症のリスクを大きく高めることなくGVHDの制御が可能になった】
同種造血幹細胞移植で移植片対宿主病(GVHD)や移植片の拒絶といった合併症を惹起する同種免疫反応の制御は,治療の成否を左右する。同種免疫反応を軽減するためには,ドナーとレシピエント間でHLAを適合させることが不可欠と考えられてきた。HLA不適合移植で生じる強い同種免疫反応を抗腫瘍効果(GVL効果)として期待しているが,表裏一体として重篤なGVHDが生じうる。その制御のために,従来は抗胸腺グロブリン(ATG)をはじめ,強力な免疫抑制が必要であり,結果として感染症のリスクも増加する。特にHLA半合致移植(いわゆるハプロ移植)は,これらの合併症の制御に難渋することもあり,特殊な位置づけであった。
これを一変させたのが,ハプロ移植における,シクロホスファミドの移植後投与による免疫抑制法である。移植「前」処置として頻用される抗癌剤である同剤を移植「後」に投与することで,移植片に含まれるアロ反応性の(GVHDを惹起しうる)リンパ球が選択的に除去されることが想定されている。これを他の免疫抑制薬と組み合わせて用いることで,ハプロ移植でも「丁度よい」免疫抑制効果が得られ,感染症のリスクを大きく高めることなく,GVHDの制御が可能になった。
この治療のインパクトは,親子間あるいはHLA半合致の同胞間でも安全に移植可能となったことにある。欧米では既に標準的な移植の一翼を担っており,HLA適合ドナーを有しない患者でも同種移植の恩恵に与れるようになった。わが国でも同手法による移植数は着実に増加しているものの,シクロホスファミドの移植後の投与は適応外使用となるため,臨床試験での施行が中心である。
【解説】
栗田尚樹 筑波大学医学医療系血液内科講師