No.4710 (2014年08月02日発行) P.17
長尾和宏 (長尾クリニック)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-03-28
去る7月12、13日に第22回日本ホスピス在宅ケア研究会全国大会が神戸ポートピアホテルで盛大に開催された。大会テーマは、「あなたは考えていますか? 2020年終(つい)の棲家を」だった。2020年は東京でオリンピックが開かれ、日本中がオリンピックムード一色になる年だ。その5年後の2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり介護を必要とする人口がピークを迎える。2025年の労働力人口は5820〜6320万人になると予測され、一方介護職員数が212〜255万人と労働力人口の3.4〜4.4%が介護に関係する仕事に従事しなければ成り立たない社会になる。全死亡数は160〜170万人と予測され、そのうち約40万人の終の棲家がどうなるのかが国家的課題になっている。さらに世帯主が65歳以上の世帯の3分の2は高齢者だけの世帯となるという試算もある。
2025年に自分自身や家族が無事老いを迎えるために、5年前の2020年までに何を準備しておくべきかが、大会のメインテーマ。これは患者さんだけでなく、団塊の世代やその周辺にある私たち自身の課題でもあるのだ。
「日ホス」の愛称で親しまれている本研究会は、市民の目線で医療・介護・福祉を考える全国組織である。不肖、私も理事を拝命している。日ホスは市民が主役であるため、役員や大会実行委員には市民や学生やボランティアがたくさん加わっている。会場で「先生」と呼ぶことは固く禁じられていて、間違って口にした場合100円の罰金が取られるくらい徹底してフラット志向だ。同様の全国組織は他にもあるが、日ホスは草分けであり、これほどまでに市民の参加が多い研究会はないだろう。
全国大会には毎回数千人の参加者があり、どの会場も超満員となる。それぞれの専門性をさらに深めてゆくために「市民部会」「グリーフ部会」「スピリチュアル部会」などの「部会」があり、それぞれに独自の企画を任されている。市民目線から、自分が受けたい/受けたくない医療・ケアを前もって提示するリビング・ウィルやアドバンス・ケア・プラニングに関する企画なども目白押しだった。
医療・介護・福祉関係者はもちろん研究者、実践者、僧侶、厚労省関係者、ジャーナリストなど実に多彩な顔ぶれが集っていた。ここには病院や診療所というカテゴリーもない。「ホスピス」という言葉は、ここでは、ハードではなく「ホスピスマインド」という意味で使われている。
私は「医療は市民が造るもの」と思っているが、思い返せば本研究会で鍛えられた結果、そう確信するに至ったような気がする。在宅医療はもはや「地域包括ケアシステム」という視点で議論される時代だ。どこに行っても「医療と介護の連携」が話題になるが、裏を返せばそれだけ連携できていないということ。医師の意識変容、介護保険制度の改善が急務のはずだ。本研究会が目指しているものは、市民目線での「地域包括ケア」の構築。気がつけば今後の医療・介護の本道を議論する場に成長していた。
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