特発性肺胞低換気症候群は,呼吸器系臓器,神経,筋肉,胸郭などに異常所見がなく,胸部X線撮影や呼吸器機能検査上も異常を認めないにもかかわらず,動脈血液ガス分析で,PaCO2>45Torrの高度な高二酸化炭素血症および低酸素血症を合わせた,肺胞低換気の病態を日中にも呈する,原因不明の難治性希少性の呼吸器系疾患である。
不眠傾向や中途覚醒を呈する重度の睡眠障害と日中の強い眠気症状がある。病態が進行すると,高二酸化炭素血症を伴うⅡ型呼吸不全状態が進行し,呼吸困難を生じるようになり,さらに全身浮腫などの右心不全徴候を認めることもある。夜間の突然死が多いとの報告がある。これら日中の眠気や夜間異常呼吸から,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)と混同されて診断されることがあり,注意を要する。一方,本疾患にOSASが併存する例があり,鑑別が難しい場合もある。
特発性肺胞低換気症候群は,原因不明の難治性疾患であり,治療法は確立されていない。肺胞低換気症候群は厚生労働省が難病指定している,睡眠関連性の低換気障害であるが1),先天性中枢性低換気症候群(congenital central hypoventilation syndrome:CCHS)(オンディーヌの呪い)や肥満低換気障害などがあり,これらを除外した後に,特発性肺胞低換気症候群と診断される。そのため,まず本疾患であるかを正確に診断していく必要がある。中枢性低換気症候群の可能性を除外するため,頭部CTやMRIなども行う。肺胞低換気状態は,様々な疾患(睡眠時無呼吸症候群,慢性閉塞性肺疾患,気管支拡張症,間質性肺炎などの呼吸器系疾患,重症筋無力症などの神経・筋疾患など)が原因となり二次性に生じるため,これらの原疾患を精査し,鑑別診断を行うことが重要になる。
特発性肺胞低換気症候群は,日中に肺胞低換気が継続する病態であるが,OSASと異なり,REM期よりnon REM睡眠中に増悪することが知られており,夜間睡眠時の呼吸状態により,低換気/低酸素血症を呈するPhenotype Aと,無呼吸を呈するPhenotype Bにわかれる。終夜睡眠検査(ポリソムノグラフィー)により,両者の区別を行う。従来,特発性肺胞低換気症候群と考えられてきたものはPhenotype Aとなる。夜間のみならず,日中に肺胞低換気状態を呈する原因として,呼吸調整を行っている化学調節系や代謝呼吸調節系の異常が考えられているが,いまだ明らかになっていない。同様に肺胞低換気症候群に分類されるCCHSの場合には,遺伝子学的検査においてPHOX2B(paired-like homeobox 2B)遺伝子変異との関連が報告されているが2),本疾患ではこれらは未解明である。また,呼吸の化学調節系異常との関連性など,詳細な機序も不明のままである。そのため,治療方針を決める上で手がかりとなる情報に乏しく,現段階では対症療法が中心である。
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