6月の米国糖尿病学会で報告され(本サイト6月18日既報)、近時NEJM誌に掲載されたVERTIS CV試験は、SGLT2阻害薬による2型糖尿病(DM)例の心血管系(CV)疾患抑制作用がプラセボ群を上回らなかった初めての大規模ランダム化試験となった。なぜ他試験と結果が異なったのか——。EASDにおける議論を紹介したい。
総合討論ではまずDavid Z.I Cherney氏(トロント大学、カナダ)が、VERTIS CV試験参加例は他試験に比べ、潜在的に腎機能の良好な患者が多かった可能性を指摘した。心腎連関を考慮すれば、VERTIS CV試験ではその分CVリスクの低い集団を対象としていたことになり、そのためSGLT2阻害薬によるCV疾患抑制作用が現れにくかったのではないかとの推察である。
同氏が今回報告したVERTIS CV試験の腎転帰追加解析(事前設定)によれば、プラセボ群では当初およそ77mL/分/1.73m2だった推算糸球体濾過率(eGFR)が、48カ月後も約74mL/分/1.73m2に保たれていた。一方、例えばEMPA-REG OUTCOME試験プラセボ群におけるeGFRは、当初の76mL/分/1.73m2から40カ月後、69mL/分/1.73m2まで低下していた。またDECLARE-TIMI 58試験プラセボ群のeGFRも、当初の85mL/分/1.73m2から48カ月後には10mL/分/1.73m2以上低下していた。
なお、今回報告されたVERTIS CV試験の腎転帰追加解析は、近日中に論文が公表される予定だという。
Cherney氏による、この「VERTIS CV試験では対象が他試験に比べCV低リスクだったため、SGLT2阻害薬のCV保護作用を確認できなかった」との仮説との関連で、参考までにFrancesco Cosentino氏(カロリンスカ大学、スウェーデン)が報告した事前設定追加解析の結果を紹介したい。
それによれば、「心不全入院初発」での検討ではあるが、SGLT2阻害薬による抑制作用は、試験開始時eGFR「60mL/分/1.73m2」「未満」で「以上」に比べ、有意に強くなっていた(交互作用P値=0.04)。同様に、利尿薬全般、あるいはループ利尿薬の、「使用(必要)」群では「非使用(不要)」群に比べ、SGLT2阻害薬による抑制作用が有意に強力だった(交互作用P値はそれぞれ0.02、0.01)。
一方、Bernard Charbonnel氏(ナント大学、フランス)は、人種構成の違いに言及した。すなわち、EMPA-REG OUTCOME試験では約2割を占めていたアジア人が、VERTIS CV試験では1割程度のみだった(Charbonnel氏は東南アジア人を除いた6%という数字を採用)。アジア人では他人種と比べ、SGLT2阻害薬によるCVイベント抑制作用の強い傾向が、EMPA-REG OUTCOME試験から報告されている(ただし交互作用P値は>0.05)。