飛蚊症は,硝子体の混濁が網膜上に投影されて,視界に虫やごみのようなものが飛んで見える症状で,眼球運動とともに動くという特徴がある。多くは加齢に伴う生理的なものであるが,網膜裂孔,硝子体出血,ぶどう膜炎などに伴う病的なものもある。前者には治療法はないが自然現象であることを受け入れられるよう十分な説明が,後者には適切な治療が必要である。
青空や白い壁を見る,目を細めると強く自覚する,視線とともに動く,といった具体的な特徴を挙げて真の飛蚊症かどうかを確認する。できればその場で片眼遮蔽し,左右眼,自覚的な特徴を聴取する。さらに,発症時期と経過,視力低下,光視症,歪視,周辺視野欠損,羞明などの随伴症状の有無を確認する。そして,細隙灯検査,眼底検査等により,生理的なものか病的なものかを確実に診断する。
眼の解剖と飛蚊症の成因をシェーマ,模型,時に本人の細隙灯写真ないし動画,眼底写真などを使って説明する。
①胎生期に退縮する硝子体血管の遺残による生まれつきの飛蚊症,②黄斑前のポケット内の液化硝子体に含まれる硝子体線維,③加齢や近視に伴って生じた硝子体の線維化,④後部硝子体剥離(PVD)に伴って網膜のすぐ前方に線維性混濁が浮遊することによって生ずるもの,は「生理的飛蚊症」である。最初の3つはPVDとは無関係で,発症時期が特定しにくいが,④は比較的急に自覚するので患者は驚いて来院することが多い。すなわち,後部硝子体膜は視神経乳頭縁で輪状に強く癒着しており,PVDが起こると線維性の白い輪(Weiss ring)が視神経乳頭の前面に浮遊して飛蚊症を自覚する。
いずれの場合も,治療法がないこと,もう片眼にも同様の現象が生じうること,硝子体液化の進行によって稀に続発性に網膜裂孔などを生じうることを説明する。液化の進行に伴い形や大きさも変化し,多くは硝子体内の混濁が網膜面から離れることで自覚は減っていくこと,しかし一方で,前述の随伴症状が生じる,浮遊物が急に増える,もう片眼にも出現するなどの場合は,再度眼底検査が必要であることを説明し理解を得る。可能であれば続発する裂孔形成が生じていないことを確認するため,数週間後に再度眼底検査を行う。
硝子体出血,網膜裂孔形成,ぶどう膜炎,硝子体網膜変性に伴う「病的飛蚊症」の場合は,その病態と成因を説明し,それぞれに応じた治療を行う。
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