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「トヨタ役員の麻薬報道と日本の緩和医療」[長尾和宏の町医者で行こう!!(52)]

No.4763 (2015年08月08日発行) P.13

長尾和宏 (長尾クリニック)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-14

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  • トヨタ女性役員の麻薬密輸報道の波紋

    今年6月、オキシコドンという薬品名が一挙に有名になった。トヨタ自動車の女性役員が、オキシコドン57錠を密輸した疑いで逮捕された事件が大きく報道されたからだ。すでに役員を辞任し、悪質ではないと判断され不起訴となり、事件は一件落着したかのように見える。しかしこの報道は、医療現場に大きな影を落とした。つまり先進国でもっとも遅れていると指摘されている我が国の緩和医療に「麻薬は怖いものだ」という印象を与え、冷や水を浴びせる格好になった。

    オキシコドンはがん性疼痛に有効だが、本報道以降、強い痛みがあるのに医療用麻薬を拒否する患者さんが増えている。私は在宅ホスピス医として常に何人かの末期がん患者さんを診ているが、麻薬を拒否した患者さんが数人おられた。明らかに今回の報道の影響である。医療用麻薬をまだ一度も使ったことのない医師や、麻薬免許は持っているが処方経験が少ない医師にも負の影響が懸念される。

    今回の女性役員の行動は国内法に触れるので、逮捕という対応は当然であろう。しかしその後、あそこまでセンセーショナルな報道をする必要があったのだろうか。医療用麻薬は必要な人に必要な量だけ使えば大きな恵みとなる。日本は米国と違い規制が大変厳しいが、それは米国のように依存症や慢性中毒を出さないためだ。せっかく種々の医療用麻薬が使える時代になったのに、あの報道以降、その恩恵に与れない患者さんが増えている。医療用麻薬への誤解を解くには、またかなりの時間が要りそうだ。今回の報道が、ただでさえ遅れている我が国の緩和医療の啓発に水を差すことを心配する一人である。

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