1 透析導入を検討すべき状態とは?
慢性腎臓病(CKD) G4(eGFR 15~29mL/分/1.73m2)に至った時点で,末期腎不全治療について詳細な説明と腎代替療法に関する情報を提供する。
CKD G5(eGFR<15mL/分/1.73m2)に入った段階で,腎代替療法の開始を判断する。
実際には,eGFRの数値だけで透析導入の是非を判断するわけではない。
2 各CKD stageにおける望ましい介入法とは?
「この患者に透析を本当に導入するべきか」の判断に迷う症例は現場で増えており,CKD G4に入った段階で先々腎代替療法を導入するか否かについて,
・患者や家族と話し合いを開始する。
・各ステップで行うべき介入法を理解する。
・目の前の患者が,どのステップにいるかを把握する。
3 筆者が考える,透析の開始や継続を検討する際の医師の基本姿勢
患者に透析施行の必要性が出現した場合,透析に関わる医療者として施行を勧めるスタンスが基本ではあるが,患者の意向に十分配慮するとともに,実際に施行する際のリスク(認知症の問題など)や予後等についても吟味する。
透析によって得られるメリットは当然のことながら,拘束時間,合併症,医療経済的な問題も十分に考慮する必要がある。
4 透析を始める・終わるにあたってのジレンマ
わが国では新規透析導入患者の高齢化が顕著である。
高齢であればあるほど,心機能などの予備能において透析導入時の個人差が大きい。認知症やフレイルの問題など,施行リスクも考慮する必要があり,あくまでケースバイケースで患者背景を考慮しながら導入を検討する必要がある。
具体的には,①透析に関する十分な情報提供を受けた上で患者や代諾者たる家族等から透析見合わせの強い希望があるケース,②認知症の影響で透析施行時に穿刺針を抜いてしまう,血圧が維持できないなど,透析を安全に施行できないケース,などでは倫理的ジレンマが生じやすい。
「倫理的ジレンマが生じやすい患者=透析の開始を見合わせる患者」ではない。
ジレンマを認知し,患者や代諾者との共同意思決定(SDM)プロセスを通じて,可能な限りその解消に努めることが重要である。
5 透析を始める・終わるにあたってのジレンマにどうアプローチする?
詳細は本文に記載するが,原則として日本透析医学会やRenal Physicians Association(RPA)が公表している意思決定プロセスに沿ったアプローチを行う。
まずは患者の意思決定能力を確認し,保たれていないのであれば,代諾者は誰か,を確認する。procedure oriented(患者の治療・ケアの目標とは関係なく,ある手技・治療をするか,しないかについて一律に決めていく手法)ではなく,goal oriented(患者の治療・ケアの目標を達成するために必要なことと,不必要なことを決めていく手法)な意思決定を行う。
重要 患者の治療・ケアのゴール(患者が治療・ケアを受けることで達成・実現したいと考えている個人的な目標)を実現しうる腎代替療法の各選択肢について十分に検討・説明し,場合によっては,time-limited(期限を定めて実際にやってみて,それによる効能や負担を確かめ,状況によっては透析中止も検討する方法)に透析を実施することを検討する。透析の見合わせに関する意思決定を進める上で,積極的に倫理委員会を活用する。
6 伝えたいこと
新規導入患者を含めて透析患者の高齢化が進んでおり,47.1%もの透析施設で見合わせ(開始しない,もしくは再開の可能性を残しながら中止する)を経験している。また,人生の最終段階ではない患者に対し,患者や家族等の強い希望から見合わせを判断せざるをえない状況も出てきている。このような状況の中,患者目線のシステマティックな透析の開始・見合わせに関する基本的な考え方・アプローチ法を身に付けることは必須となる。
予想される予後が芳しくないから透析を見合わせるという判断基準だけでは不十分であり,あくまで患者にとっての最良の治療・ケアのゴールを明確化し,その実現のための手段として透析を開始・継続するか,見合わせるかを吟味することが重要である。
自験例を交えながら,実地での介入法についてわかりやすく紹介したい。