視神経炎は視神経における炎症性疾患であり,その主体は髄鞘抗原を標的とする自己免疫性障害と考えられ,脱髄性視神経症と推定されている。障害の部位により,乳頭腫脹を伴う前部視神経炎と,急性期には乳頭変化を生じない球後部における炎症である球後視神経炎に分類される。視神経炎の原因としては,多発性硬化症(MS)や視神経脊髄炎(NMO),結核や梅毒などの感染症,サルコイドーシス,全身性エリテマトーデス(SLE),シェーグレン症候群など様々な原因が挙げられ,原因の特定ができないものは特発性視神経炎とされる。特発性視神経炎を含め特定の臨床的特徴を示すものは,典型的視神経炎としてまとめられる。近年,アクアポリン4(AQP4)に対する抗体である抗AQP4抗体や,ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(MOG)に対する抗体である抗MOG抗体が視神経炎に関連することが解明され,典型的視神経炎に含まれない視神経炎は,臨床経過や治療方針の違いなどから非典型的視神経炎として区別される。
急性発症の片眼性視神経症で発症し,相対的求心性瞳孔反応異常(RAPD)陽性を認める。前部視神経炎では乳頭腫脹,球後視神経炎では眼窩部MRI(STIR法)撮影,造影T1強調画像で高信号を認める。
典型的視神経炎の特徴と臨床経過を以下にまとめる。年齢は15~45歳で女性に多く,片眼性の急性視神経症で発症する。数日から2週程度まで視機能障害が進行し,その後5週以内に回復傾向を示す。ステロイド反応性が良好である。
典型的視神経炎とは異なる徴候を示す場合には原疾患の検索を行う必要があり,NMO,シェーグレン症候群,多発血管炎性肉芽腫症など,全身症状に注意し検索を行う。抗AQP4抗体を早期に評価しておくことは,治療方針決定において重要となる。また,MSの現段階での発症もしくは今後の発症リスクを評価するため,頭部MRIにて脱髄病変の有無を確認する。
典型的視神経炎の視機能障害は数日から2週間まで増悪するが,3週間以内に79%,5週間以内には93%で改善が始まる。発症1年後の小数視力は95%が0.5以上に改善し,10年後には74%が1.0以上であったと報告されている。ステロイドパルス療法は視機能の回復期間を短縮するが,発症1年後の視力,コントラスト感度,色覚,視野での有意差は認められず,また15年後の長期的な視機能予後には影響を与えない。MSへの移行率はステロイドパルス療法群が発症2年後有意に低値を認めたが,それ以降での有効性は示されていない。
結果,筆者は典型的視神経炎に対するステロイドパルス療法は,相対的適応治療と考えている。両眼発症である,高度の視機能障害を示す,唯一機能眼である,再発例(recurrent isolated optic neuritis)である,MRIにおいて脱髄斑を認める,患者が強く早期改善を望む,などの場合は適応と考え,投与を検討する。ただし,ステロイド治療の副作用である易感染性,精神症状,消化性潰瘍,耐糖能異常などを考慮し,患者背景,既往歴などを確認し,投与決定に際しては十分注意しなければならない。一方で,発症から2週間程度で改善傾向を示す場合には,積極的適応はないものと考えられる。このように,患者背景などに伴い適応が変化するため,患者へ情報提示を行い治療選択するのが望ましい。
他方,非典型的視神経炎においてはステロイドパルス療法が必須である。初診の段階では,典型的視神経炎であるのか非典型的視神経炎であるのかは判断が難しく,視機能障害が強い症例においては,ステロイドパルス療法を施行することとなる。
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