血液悪性疾患患者の多くは,輸血依存性のために在宅や施設での療養あるいは緩和病棟・施設への移行が困難であり,「緩和医療難民」となる可能性が高い
在宅輸血の導入は,血液疾患においても他の悪性疾患と同様に在宅や施設での緩和療法を可能とし,そのメリットは非常に大きい
在宅輸血の安全な普及には,輸血に精通した認定医や専門医が一般の在宅医と連携するとともに,安全性を担保しながら現場の負担を軽減するために様々なサポート体制を整備することが必要である
わが国では,人口構成の急速な高齢化に伴い,高齢者に発症頻度の高い骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS),悪性リンパ腫,多発性骨髄腫といった血液悪性疾患の患者数は増加傾向にある1)。他方,超高齢社会が進行する中,地域包括ケアというコンセプトのもと,高齢者を地域ぐるみで支えるシステムづくりを各自治体主導で進めており,悪性疾患の末期をはじめ多くの疾患において,24時間体制のチームによる在宅医療が全国展開されつつある。
血液疾患は,骨髄機能に何らかの障害を抱えているため,赤血球輸血あるいは血小板輸血に依存する頻度が他の疾患に比して圧倒的に高い。この特殊性ゆえに血液疾患,特に悪性疾患においては,自宅や施設での療養という選択肢がきわめて考えにくかった現実がある。
一方で,血液悪性疾患の末期患者の多くは,依存する血液製剤が高額なため,包括診療を行っている緩和病棟や施設には転棟,転院が困難で,当初入院した病棟で最期を迎えざるをえないという現状も意外と知られていない事実である。こうした状況に甘んじていては,血液領域の患者は医療体制変革の潮流から取り残されてしまうことが強く懸念される。すなわち,血液悪性疾患で治癒が望めなくなれば「緩和医療難民」となる可能性が高いのである。
さらには,各種支持療法の進歩も相まって,多くの地域の基幹病院の血液内科では,輸血依存性を抱えて輸血外来に通院する患者数が積算的に増加する傾向にあり,輸血外来の収容能を超えつつある。そうした環境下において,半日から場合によっては1日がかりの輸血目的の通院を,しかも重症な患者ほど頻回に要するという,当事者や家族にとっては非常に負担の大きい状況が一般的となっている。
こうした問題点に対する有効な解決策のひとつが在宅輸血である。これまでに各学会,グループ等から在宅輸血に関する調査やアンケートが複数報告されている2)~4)。要約すると,在宅輸血の必要性を感じたことがある施設は約半数であるが,そのうち実際に「患者の自宅等で輸血を行う」施設は1割未満で,7割以上は「在宅輸血はリスクが高く,輸血実施管理体制が整っている自施設または他の施設で輸血をする」と回答しており,在宅輸血の需要はあるものの実施は困難という現状が明らかとなっている。
困難とする理由には,「安全性に問題あり,不安を感じながら在宅医療をする必要はない,輸血はリスクを伴う積極的な治療で在宅医療にそぐわない」「安易な不適正な輸血を助長する」などの意見や「観察・見守りの人員不足や副作用への対応」「抜針などの処置,血液型・クロスマッチなどの検査,製剤保管などの実施体制が不十分」であり,「家族の理解,病院・訪問看護との連携も必要」などの実施体制の不備を指摘する意見もあった。
一方で,医学的に輸血の必要性があり,円滑に在宅で輸血が行えるシステムが確立されれば,輸血のために入退院や通院を繰り返す患者家族の負担軽減(移動・生活・費用)や緩和医療にもなることから,「在宅輸血を実施したい」「そのためのガイドラインが欲しい」「研修も受けたい」などの積極的な意見もあった。