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学会レポート─2020年米国心臓協会(AHA)[J-CLEAR通信(121)]

No.5043 (2020年12月19日発行) P.64

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2020-12-16

最終更新日: 2020-12-15

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11月13日から17日にかけ、米国心臓協会(AHA)学術集会が完全オンラインで開催された。当初はダラスにて開催し、ライブとオンライン配信2本立ての予定だったが、新型コロナ感染拡大のため、オンラインのみでの開催となった。AHA学術集会がライブ開催されないのは、1925年のアトランティック・シティ開催第1回学術集会(参加者約200名)以来初である。ここでは、一般医家にも身近と思われるトピックスを紹介したい。

TOPIC 1
経口強心薬がついに慢性心不全例の転帰を改善 :RCT “GALACTIC-HF”

収縮障害心不全(HFrEF)に対してはかつて、左室収縮力を増強すれば転帰が改善すると考えられ、さまざまな経口強心薬の有用性が検討された。しかしそれら強心薬は、短期的には症状を改善するものの、長期の臨床転帰改善作用を示せなかった。加えてその後、左室抑制作用のあるβ遮断薬がHFrEFの標準治療となるに至り、経口強心薬はHFrEF治療の世界から久しく姿を消していた。しかし今回のAHAでは、新規経口強心薬であるオメカムティブ・メカルビル(OM)がHFrEF例転帰を改善するとした、ランダム化試験(RCT)“GALACTIC-HF”が報告され、話題を集めている。John R Teerlink氏(サンフランシスコVA医療センター、米国)が報告した。OMがこれまで大規模RCTで有用性を示し得なかった強心薬と大きく異なるのは、心筋細胞内Ca濃度を上昇させることなく心筋収縮力を増加させる点である。

GALACTIC-HF試験の対象は、「左室駆出率(EF)≦35 %」、かつ(NT-pro)BNP上昇を認めたNYHA分類Ⅱ~Ⅳ度心不全8256例である。入院、外来は問わない(ただし、GCP違反の24例をのちに除外)。

平均年齢は66歳、男性が79%を占め、アジア人も9%含まれていた。指定討論者のPaul Heidenreich氏(スタンフォード大学、米国)によれば、HFrEF対象RCTとしては過去にないアジア人の多さだという。EF平均値は27%、NT-proBNP中央値はおよそ2000pg/mLで、Teerlink氏は「きわめて高い」と評価した。NYHA分類は、53%がⅡ度、44%がⅣ度だった(数字はいずれも、学会報告された値)。

これら8232例は、全例標準的HFrEF治療の上、OM群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で21.8カ月(中央値)観察された。

その結果、OM群における、1次評価項目である「心不全イベント・心血管系(CV)死亡」の対プラセボ群ハザード比(HR)は、0.92(95%信頼区間[CI]:0.86−0.99)と有意低値となっていた。上記「心不全イベント」の内訳は、「救急受診・入院の結果、経口利尿薬調節だけでは対処できなかった心不全増悪」である。これのみで比較すると、OM群におけるHRは0.93(0.86−1.00)、またCV死亡のみであれば1.01(0.92−1.11)だった。さらにかつて多くの経口強心薬で問題となった「死亡」もOM群におけるHRは1.00(0.92−1.09)だった。

亜集団解析からは、興味深い知見が報告された。試験開始時EFの中央値(28%)「以下」群では「超」群に比べ、OMによる「心不全イベント・CV死亡」抑制作用が、有意に増強されていた(交互作用P値=0.003)。

有害事象は、試験薬中止に至った有害事象を含め、両群間に有意差は認められなかった。

前出指定討論者であるHeidenreich氏は本試験結果中、OM群において血圧低下が見られなかった点を高く評価していた。試験開始24、48週間後とも、両群の収縮期血圧に有意差はない。従来のHFrEF治療薬では血圧低下が問題となる患者が少なくなかったため、この点は非常に重要だという。

本試験はAmgenなどからの資金提供を受けて実施された。また、報告と同時に、NEJM誌にオンライン掲載された(DOI:10.1056/NEJMoa2025797)。

TOPIC 2
降圧薬・スタチン含有“ポリピル”によるCV 1次予防例のCVイベント抑制は観察されず:初のRCT“TIPS-3”①

降圧薬やスタチンなど、CV保護作用の示されている薬剤の合剤(ポリピル)による、CVイベント抑制作用が示唆されるようになって久しい。今回のAHAでは、それを実証すべく実施されたRCT“TIPS-3”が報告され、若干、意外な結果となった。Prem Pais氏(セント・ジョーンズ研究所、インド)が報告した。

TIPS-3の対象となったのは、男性50歳以上、女性55歳以上で、CV疾患発症リスクが年間1.0%超と見積もられた、血管系疾患既往のない5713例である。うち48%がインドで登録され、次いでフィリピン(29%)、コロンビア(9%)と続いた。

平均年齢は64歳、女性が53%を占めていた。84%に高血圧、36%に糖尿病を認め、10年間CV疾患発症リスクは約1.5%だった。

これら5713例は「β遮断薬・ACE阻害薬・ヒドロクロロチアジド・スタチン」配合剤(ポリピル)群とプラセボ群にランダム化され、平均4.6年間観察された。

その結果、血圧は、試験開始時の145mmHgから、ポリピル群でプラセボ群に比べ、観察期間平均で5.8mmHgの低値となったものの、当初予想の9.0mmHgには及ばなかったとPais氏は述べた。LDLコレステロールも同様で、試験開始時の121mg/dLから、ポリピル群ではプラセボ群に比べ、19.0mg/dLの有意低値となったが、これも当初想定していた下げ幅の約半分だったという。

この一因と考えられたのが、服薬アドヒアランスの低さだった。多剤併用に比べアドヒアランス良好が強みのはずだったポリピルだが、2年間で19%が服用を中止、この数字は4年後には32%に上った(プラセボ群も同様)。ただし有害事象による中止は5%のみだった。なお、ランダム化前3〜4週間の導入期間で、アドヒアランス8割未満例は除外されている。

その結果、1次評価項目である「CV死亡・脳卒中・心筋梗塞・心不全・蘇生可能だった心停止・動脈血行再建術施行」の、ポリピル群における対プラセボ群HRは0.79(0.63−1.00、P=0.050、4.4% vs. 5.5%)であり、群間に有意差は認められなかった。

同様に、有害事象による試験薬服用中止率も、両群間に有意差はなかった。

TOPIC 3
アスピリン・降圧薬・スタチン含有“ポリピル”には可能性も:初のRCT“TIPS-3”②

TIPS-3では報告①での比較に加え、ポリピル群、プラセボ群の中でさらに、アスピリン配合剤群とプラセボ配合剤群へのランダム化を行い、CV疾患1次予防例に対するアスピリンのCV疾患抑制作用も検討している。結果として、この比較における1次評価項目である「CV死亡・脳卒中・心筋梗塞」のアスピリン配合剤群におけるHR(対プラセボ配合剤)は0.86となったものの、95%CIが「0.67−1.10」となり、有意差には至らなかった。CV 1次予防におけるアスピリンの有用性は、またもや否定された形である。

さて、この比較と報告①で紹介した「ポリピル vs. プラセボ」の比較を組み合わせると、「ポリピル(降圧薬3剤+スタチン)・アスピリン合剤」(ASA含有ポリピル)と「プラセボ・プラセボ合剤」(プラセボ)の比較が可能になる。TIPS-3試験では、この比較も事前設定のサブ解析として予定されており、その結果をSalim Yusuf氏(住民健康研究所、カナダ)が報告した。

まず観察期間を通じた収縮期血圧の差は、ASA含有ポリピル群(1429例)でプラセボ群(1421例)に比べ5.8 mmHgの有意低値だった。またLDLコレステロールも、プラセボ群に比べ、19.4mg/dL、有意に低下していた(いずれも、P<0.0001)。これらの改善幅は、TIPS-3試験全体と同等である(報告①参照)。

にもかかわらず、本比較における1次評価項目とされた「CV死亡・脳卒中・心筋梗塞・心不全・蘇生に成功した心停止・動脈血行再建術施行」の、ASA含有ポリピル群における対プラセボ群HRは0.69(0.50−0.97、4.1% vs. 5.8%)の有意低値となった。上記評価項目の内訳を見ると、ASA含有ポリピル群では、CV死亡の減少が著明だった。

あくまでもサブ解析だがこの結果を受け、Yusuf氏はASA含有ポリピルの有用性を主張していた。

TIPS-3試験はWellcome Trustほかからの資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、NEJM誌にオンライン掲載された(DOI:10.1056/NEJMoa2028220)。

TOPIC 4
CV高リスク高TG血症に対するオメガ3脂肪酸の有用性に疑問符:RCT“STRENGTH”

2018年のAHAではREDUCE-IT試験が報告され、高トリグリセライド(TG)血症を呈するCV高リスク例に対する、高用量エイコサペンタエン酸(EPA)製剤の虚血性脳心血管系イベント抑制作用が示された1)。しかし今回報告されたSTRENGTH試験では、対象は同様ながらオメガ3脂肪酸によるCVイベント抑制作用は確認されず、今後、議論を呼ぶ可能性がある。A. Michael Lincoff氏(クリーブランドクリニック、米国)が報告した。

STRENGTH試験の対象は、世界22カ国から登録された、スタチン治療下で高TG血症と低HDLコレステロール血症を呈する、CV 2次予防・CV高リスク1次予防の1万3078例である。平均年齢は63歳、男性が65%を占め、56%がCV 2次予防例だった。

これら1万3078例はオメガ3脂肪酸(カルボキシル化されたEPA/ドコサヘキサエン酸[DHA]剤4mg/日)群と、プラセボ(コーン油)群にランダム化され二重盲検法で観察されたが、有効性が期待できないため早期中止となった(追跡期間中央値:42カ月)。

すなわち、1次評価項目である「CV死亡・脳卒中・冠動脈イベント(心筋梗塞、冠血行再建術、不安定狭心症入院)」の、オメガ3脂肪酸群におけるHRは、0.99(0.90−1.09)であり、両群の発生率曲線はほぼ完全に一致していた。CV 1次予防、2次予防例に分けて検討しても、両群間に有意な差はなかった。なお3次評価項目ではあるが、新規心房細動検出HRは、オメガ3脂肪酸群で1.69(1.29−2.21)の有意高値となっていた。両群の発生率曲線は、試験開始半年後から乖離を始め、試験終了時まで開き続けた。

また興味深い後付け解析として、オメガ3脂肪酸群における試験開始後のEPA、DHA上昇幅が大きい群(最高三分位群)のみで比較しても、プラセボ群に比べ、1次評価項目の有意なリスク低下は認められなかった。

先述の通り一昨年の本学会では、同様の患者群を対象に、高用量(4g/日)EPAによる脳心血管系イベント抑制作用を示したREDUCE-IT試験が報告されている。Lincoff氏は、STRENGTH試験において、オメガ3脂肪酸の有用性が認められなかった様々な要因を検討した結果、「対照群」の違いに原因を求めた。すなわち、REDUCE-IT試験ではSTRENGTH試験とは異なり「鉱油」がプラセボとして用いられた。その結果、REDUCE-IT試験では、STRENGTH試験では観察されなかった、プラセボ群におけるhsCRP、LDLコレステロールの大幅な上昇が認められている。

対照的にSTRENGTH試験では、そのような悪影響のない「真に中立的」なプラセボが用いられた結果、オメガ3脂肪酸のCVイベント抑制作用は確認できず、また前出の「オメガ3脂肪酸群における新規心房細動発症リスクの上昇」(REDUCE-IT試験でも観察)を考えれば、このような患者群に対するオメガ3脂肪酸の有用性は不明である─というのがLincoff氏の結論である。

本試験は、AstraZeneca AB(試験薬の製造社)から資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、JAMA誌にオンライン掲載された(doi:10.1001/jama.2020. 22258)。

【文献】

1) Bhatt DL, et al:N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.

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