No.5044 (2020年12月26日発行) P.12
長嶺由衣子 (東京医科歯科大学 介護・在宅医療連携システム開発学講座)
堀田聰子 (慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科教授)
登録日: 2020-12-24
最終更新日: 2020-12-24
SUMMARY
個人や世帯が抱える課題の多様化・複雑化や社会的孤立という日本と共通する背景のもと,英国で進められてきた「社会的処方」。その推進の経緯や基本理念は,日本での地域共生社会の実現に向けても示唆に満ちている。
KEYWORD
地域共生社会
制度・分野の壁や支える側,支えられる側という関係性を超えて,地域の様々な主体が世代を超えて参加し,人と人,人と社会がつながることで,一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会を目指すもの。
PROFILE
2009年長崎大学医学部医学科卒。家庭医療専門医。修士(社会疫学),医学博士(公衆衛生学)。オレンジクロス財団「日本版『社会的処方』のあり方検討事業(仮題)」世話人。(長嶺,写真も)
POLICY・座右の銘
早く行きたいなら一人で行け,遠くへ行きたいならみんなで行け(アフリカの諺)
ここまでのシリーズでは,「社会的処方」とは何か,日本の診療所,病院,医師会,まちづくり,それぞれの文脈でどのような実践が行われてきたのかを紹介してきた。本稿では改めて,「社会的処方」が広がってきた英国における背景をふまえ,地域共生社会推進の観点から,日本の医療職への示唆を整理する。
日本で介護保険制度が成立した2000年頃,英国の国民保健サービス(英国の国営医療サービス事業,以下NHS)では,慢性疾患を持つ人々への支援の改革に関わる議論があり,慢性疾患の適正なコントロールには治療(医療的なアプローチ)のみならず,個人の価値観を尊重した予防や健康に寄与する社会サービス活用の有効性があることが言及された。この流れの中,2006年,患者を主語にした健康の促進とそれを助ける地域活動へのアクセスの仕組みの1つとして,英国保健省が発行する白書の中で,初めて「社会的処方」が紹介された1)。