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Q熱[私の治療]

No.5046 (2021年01月09日発行) P.41

宮下修行 (関西医科大学内科学第一講座呼吸器感染症・アレルギー科教授)

尾形 誠 (関西医科大学内科学第一講座呼吸器感染症・アレルギー科講師)

福田直樹 (関西医科大学内科学第一講座呼吸器感染症・アレルギー科)

登録日: 2021-01-10

最終更新日: 2021-01-06

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  • Q熱は,リケッチア科のコクシエラ属に分類されているCoxiella burnetiiの感染によって起こる人畜共通感染症で,1935年オーストラリアのクイーンズランド地方に発生した原因不明の高熱性疾患“query fever”に由来したものである。C. burnetiiは,他のリケッチアにはないグラム陰性腸内細菌のS-R変異に似た相変異を示し,ⅠおよびⅡ相菌がある。Ⅰ相菌は感染力の強い強毒型の新鮮分離株であるが,これを長期間発育鶏卵や培養細胞で継代すると,表層のLPS構造が短縮して感染力は低下し,弱毒型のⅡ相菌になる。この抗原性の変化は“phase variation”と呼ばれ,C. burnetiiの最大の特徴とされている。

    ▶診断のポイント

    Q熱では,ほかのリケッチア感染症において特徴的にみられる,ダニによる刺し口や皮疹,リンパ節腫脹を伴うことはなく,その他の症状・所見も特徴的なものがない。急性Q熱で最も多く認められるのがインフルエンザ様症状で,発熱(弛張熱),悪寒,頭痛,胸痛,筋肉痛,関節痛,食欲低下,嘔吐などの非特異的なものであり,1~2週間以内に治癒する。一方,肺炎を起こした症例では発熱と乾性咳嗽が多く,そのほかに倦怠感や筋肉痛,頭痛などの全身症状もよくみられるが,呼吸困難を伴う例は少ない。急性期の検査成績では,一過性の肝機能障害が多くみられ,血小板の減少やCPKの上昇を伴う例も存在する。末梢血の白血球の増加はみられないか,あっても軽度にとどまる場合が多いとされ,マイコプラズマやクラミジアによる非定型肺炎との鑑別は困難である。したがって,臨床像のみからQ熱を積極的に疑うことは困難である。

    C. burnetiiは自然界に広く分布し,家畜(ウシ,ヒツジ,ウマ,ヤギ),愛玩動物(イヌ,ネコ),野生動物(シカ,クマ,キツネ,タヌキ),鳥類(ニワトリ,カラス,ハト,野鳥)などを宿主に,ダニと動物間で感染環が成立している。感染環の第一はダニ-野生動物(含鳥類)-ダニで,これが潜在性の汚染源になる。この環の中に家畜・愛玩動物やヒトが介入して,第二の感染環であるダニ-家畜-家畜またはヒトの感染に進展する。ヒトへの感染は,罹患動物の尿,糞便,乳などの排泄物や分泌物の吸入による経気道感染が最も多いとされている。

    本病原体は特に胎盤への親和性が強いため,宿主動物の出産時には高濃度の曝露が生じ,感染の危険性が高くなる。したがって,Q熱患者から動物との接触歴を聴取することは,病原菌推定の有用な手がかりとなるが,実際には動物との接触が明らかでない症例も多数報告されている。

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