No.5052 (2021年02月20日発行) P.54
西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)
登録日: 2021-01-25
最終更新日: 2021-01-25
2020年10月、ニュージーランドにおいて安楽死に関連する法案が国民投票で賛成多数となり、2021年秋から施行されることとなった。そして12月、今度はスペインでも安楽死を合法化する法案が下院で可決し、上院でも可決される見込みであることが報道された。これで国レベルとしては世界7カ国で安楽死合法化が成立することとなった。
21世紀になってから先進国を中心とした世界で、安楽死に関する議論が高まり、また制度化が進んできている。
一方の日本でも、2020年7月に京都において患者に対する嘱託殺人を行った2名の医師が逮捕された事件を機に、SNSなどを中心として安楽死制度を求める議論が盛り上がった。今回の事件が、「日本において安楽死制度が必要かどうか」の議論のきっかけとなることの是非はさておき、これまでも様々な事件が起こるたびに多くの医療者が多種多様な意見を展開してきた。ある人は「安楽死は絶対に反対」と言い、ある人は「それが『尊厳死』と判断されるのであれば良い」と言い、また別の人は「時期尚早である」と言って議論を遮断した。
医療者といえども、個々はひとりの人間である。「死の権利」があるや否や、ということになってもそれに対する意見はバラバラ。それが当然であろうと思う。ではしかし、「医療者としての立場から」だとどうだろうか。私はむしろ、医療者としての仮面を被る場においては、「安楽死制度を是認する立場に与しない」方が良いのではないかと考えている。それは結果的に日本において安楽死制度ができたとしても、だ。医師が個人的な死生観で安楽死の可否を判断するシステムが最適かどうかを考えてみればよい。受診する医師によって、患者の寿命が変わる、ということだ。しかも、患者側は自分の主治医がどのような死生観を持っているか、終末期に近くなるまで知ることがない。そこでアンマッチが起きた場合の不幸─これはもう既に現代にもある。
日本には日本が目指す「安らかで楽な死」の形があるはずだ。この1年間の連載では、私が緩和ケアの考え方をどのように応用し、社会の中で「死にたい」と思う人を一人でも減らし、本当の意味での「安らかで楽な死」を実現することができるのかということを、医療者としてできることという視点から考えてみたいと思う。
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[安らかで楽な死]