翼状片は変性した結膜組織が角膜上に侵入し,徐々に進展する慢性疾患である。結膜下の結合織の増生と弾性線維の変性,リンパ球浸潤を伴う。50歳以上の男性に多く,通常は鼻側球結膜から生じるが,2~3%は鼻側と耳側の両方から生じ,1~2%は耳側球結膜から生じる。片眼性であることが多いが,10%程度の症例は両眼性である。遺伝性は明らかではないが,兄弟例や若年発症例など少数ではあるものの,遺伝的素因が関与すると考えられる例もある。
疫学的には紫外線曝露との関連が強く,農業や漁業など屋外で働く職業や溶接工で有病率が高いことが知られている。居住地の緯度との関連もよく知られており,日本でも九州や沖縄では有病率が高く,南西諸島では40歳以上の成人の約30%が翼状片を有するという報告もある。
特徴的な形態(鼻側に生じた翼状片では内眼角を底部として角膜上へ伸びる三角形の血管に富んだ白色の膜状組織が観察される)から診断は容易である。底部から連続する結膜上の部分を体部,角膜上の部分を頭部,頭部の先の無血管領域を先端部(cap)と呼ぶ。
有効な薬物療法はないので,経過観察をするか手術を行うかのいずれかになる。進行は緩徐であり,角膜中央部をまたいで拡大することはないので,手術を行う場合には手術方法,メリット・デメリット,合併症,予後について説明した上で,患者本人に十分な考慮時間を与えることが推奨される。
手術の適応には,翼状片の大きさ,性状,年齢,角膜形状・角膜乱視,本人の希望,初発例・再発例などの要素を考慮する。翼状片の大きさは,grade 1(角膜径の1/3までの侵入),grade 2(角膜径の1/3以上で瞳孔領にかからないもの),grade 3(瞳孔領に及ぶもの)に分類される。grade 3は視力低下を伴うので基本的に手術の適応であるが,grade 1や2でも角膜乱視を惹起している場合や整容的に目立つ場合があり,その場合はやはり手術の適応となる。
手術後の合併症としては翼状片の再発,化膿性肉芽腫,球結膜の瘢痕化・充血,眼球運動障害などが挙げられるが,最も問題となるのは再発である。単純切除では再発率が30~40%と高いので,選択すべきではない。結膜有茎弁移植,または結膜遊離弁移植が推奨され,この場合の再発率は初発例では数%程度となる。若年の例,分厚い体部を持つ例,再発例では,再発防止のためにマイトマイシンCの術中塗布を行うことがある。この場合には,術後の創傷治癒遅延や強膜軟化症の発生に注意する必要がある。
複数回の再発例や眼球運動障害,瞼球癒着を伴うような例では結膜弁移植だけでなく,羊膜移植やアロ角膜輪部移植の併用を行うこともある。
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