腹部大動脈瘤は腹部大動脈が拡大する疾患で,直径3cmを超えると(正常は2cm弱)「大動脈瘤」と診断される。疫学的には危険因子として「高齢・男性・喫煙」の3項目が重要であり,60歳以上男性の喫煙者のおよそ1%程度にみられる。病因の詳細は解明されていないが,大動脈瘤では大動脈壁中の弾性板が変性・消失しており,何らかの原因で弾性板が蛋白分解酵素により破壊されることが発症に関わると考えられている。腹部大動脈瘤が拡大しても通常は無症状であり,大きくなると腹部の拍動性腫瘤として自覚されることがある。診断されない例では無症状のまま拡大し,破裂をきたす。破裂すると激烈な腰痛または腹痛を呈し,急激に血圧が低下するため,意識障害を呈する例も多い。破裂患者は搬送以前に死亡することが多いと考えられ,緊急手術を行えた場合であっても,救命できないこともある。
現状では初回診断の多くは他疾患に対する検査(エコー,CT,MRI等)で偶然指摘される。一部の患者は腹部の拍動性の腫瘤を主訴に受診し,発見される。拍動性腫瘤以外の自覚症状がほとんどないため,破裂するまで診断を受けていないケースはたびたびみられる。
スクリーニング,および経過観察にはエコーが有用であるが,検査者により再現性が異なるという問題がある。治療決定のための精密検査ではCT(可能であれば造影CTが望ましい)が必須である。紡錘型の瘤の場合,動脈瘤の短軸の最大径を瘤径とする。囊状の場合は大動脈から瘤の突出端までを瘤径とする。いずれも以前の画像があれば,瘤径と形状の経時的変化の評価を行う。瘤径以外には,中枢あるいは末梢への伸展(腎動脈および腸骨動脈に及んでいるか)の評価が重要である。
治療適応になるまでは3カ月~1年ごとにエコーまたはCTでの経過観察を行う。治療適応(下記)になったら治療を考慮する。
動脈瘤径が5cm以上(女性は4.5cm以上とする場合もある)または拡大速度が速いものは治療適応とする。囊状動脈瘤はサイズに関係なく,形状やもともとの血管のサイズを考慮して治療を決定する。治療法の選択は以下に述べる。専門科以外で発見された場合は瘤径にかかわらず,一度専門科へ紹介することが望ましい。
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