・心房細動はわが国だけで罹患者数が推定100万人以上と言われる国民病である。いわゆる絶対性不整脈と呼ばれる「心臓の病気」である。心拍数をうまく制御できなかったり,心機能を抑制する抗不整脈薬を長期間服用したりすると,心拡大や弁の逆流が徐々に悪化して心不全になる可能性がある。
・致死率の高い血栓性脳梗塞を起こすため「脳の病気」であるとも言える。
・不整脈に対しては患者に適した抗不整脈薬を使用した心房細動の抑制(リズムコントロール),慢性症例には頻脈化しないように心拍数を制御する(レートコントロール)保存的治療がまず行われる。
・保存的治療が限界となったり,困難となったりした場合に,観血的リズムコントロール治療(アブレーション治療)が選択される。
・血栓性脳梗塞予防治療として,抗凝固治療(ワルファリンや非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬使用)が行われるが,治療が困難な患者には左心耳閉鎖術が適応となる。
・米国の心臓外科医であり,筆者の臨床留学時の師である,ランドール・ウルフ医師が開発した「ウルフ・ミニメイズ」と呼ばれる低侵襲手術法を基本とする。脈の治療として,肺静脈隔離を中心とした外科的アブレーションを行い,血栓性脳梗塞予防として左心耳切除術を行う。
・筆者は,内視鏡下手術テクニックを最大限に駆使し,ウルフ・ミニメイズを,さらに低侵襲な術式であるウルフ-オオツカ法に進化させた。
・経皮的カテーテルアブレーションと比較した利点:①心外膜側(心臓の外側)から神経節叢を含む広範囲の組織を電気的隔離する,②左心耳を必ず切り取る。
・経皮的左心耳閉鎖デバイス(わが国ではWATCHMANTM)移植法と比較した利点:①左心耳のサイズや形状を選ばずに閉鎖できる,②抗凝固治療からの離脱がより確実で速やかである,③副次的効能がある,④医療コスト面でも優れている。
心房細動は,わが国だけで罹患者数が推定100万人以上と言われる国民病である1)。いわゆる絶対性不整脈と呼ばれる「心臓の病気」である。心拍数をうまくコントロールできなかったり,心機能を抑制する抗不整脈薬を長期間服用したりすると,心拡大や弁の逆流が徐々に悪化して心不全になりうる。視点を変えてみれば,致死率の高い血栓性脳梗塞を起こすため「脳の病気」であるとも言える。
心房細動の原因は色々ある。加齢とともに増え,80歳代では男性4%,女性2%が心房細動に罹患していると報告されている(図1)2)。無症状の場合も多いので,潜在的にはもっと多いはずである。したがって,人口の急速な高齢化に伴い,今後,心房細動の患者が急増していくことが予想される。
生活習慣も,心房細動発作の誘発に大きな影響を与えることが知られている。アルコールやカフェインの習慣的な過剰摂取はリスクとして知られている。次の,3つの重要なリスクファクター(心房細動のSOS)を覚えておきたい。S:ストレス(肉体的,精神的負担),O:オベシティ(肥満),S:スリープ・アプネア(睡眠時無呼吸症候群)である。他の心臓血管疾患と同様に,なるべくストレスを溜めないように生活し,オーバーウエイトにならないような食事や適度な運動を心がけることが予防につながると言える。
睡眠時無呼吸症候群は,患者本人が気づかないため,軽視されがちであるが,睡眠不足症状のみならず,突然死を起こすような心臓・脳血管の障害をもたらすサイレントキラーである。自律神経系を介した心房細動発生のメカニズムも解明されている3)。ウルフ-オオツカ法を実施した患者のうち,70%が睡眠時無呼吸のスクリーニング検査で陽性であり,そのうち半分はCPAP(continuous positive airway pressure,持続陽圧呼吸療法)を必要とする重症者であった。急性大動脈解離など,重大な心臓・脳血管の疾患を予防するためだけでなく,心房細動の改善や治療効果を上げるためにも,睡眠時無呼吸の治療は積極的に受けるべきである。
心房細動を発症すると,最も恐ろしいのは脳梗塞を代表とする血栓塞栓症である。心房細動になると,その名の通り,心房が細かく震える動きとなり,左房内の血流が淀む。その結果,血栓が形成され,血流によって全身に運ばれて塞栓症を起こす。心臓から最も近い分枝である頸動脈に血栓が流れると,「心原性」と定義される脳梗塞をもたらす。頻度は下がるが,上腸間膜動脈に血栓塞栓が及ぶと,きわめて致死性の高い,広範囲の腸管壊死を起こす4)。
心原性脳梗塞も,多くの場合,非常に深刻である。脳卒中と呼ばれる病態の中で最も重篤な結果となる脳出血と同程度の致死率をもたらし,生存しても重い後遺症を残しやすい。麻痺を残すような重い脳梗塞のみならず,認知症やうつ病などの脳の高次機能障害をもたらすとも言われている(サイレントストローク)5)。これは,継続的に大脳皮質に流れ込む微小血栓が原因であろうと推察されている。
コラム1
心房細動は遺伝するのか?
心房細動は,遺伝的素因もある6)。筆者がウルフ-オオツカ法を実施した患者には,遺伝性を疑う家系も少なくない。ほぼ同時期に心房細動を発症し,ウルフ-オオツカ法によって治療した一卵性双生児の兄弟も2家系経験している。血縁者に心房細動患者がいれば,要注意であろう。