リンパ浮腫は原発性(遺伝性と特発性)と続発性に分類される。続発性リンパ浮腫は乳がん手術や骨盤内悪性腫瘍手術の際にリンパ節郭清を行った場合に続発しやすい四肢の浮腫が主であり,悪性腫瘍(乳癌,婦人科癌,前立腺癌,直腸癌,悪性リンパ腫など)の四肢リンパ節転移でも生じてくる。そもそも,浮腫の原因として血管性浮腫や薬物性浮腫,蜂窩織炎などと鑑別せねばならない。
リンパ浮腫の治療はスキンケア・リンパドレナージ・圧迫療法・運動療法を組み合わせた複合的治療が推奨され,漢方治療はエビデンスレベルのグレードC2(十分な科学的根拠がないので推奨できない)となっていることに留意すべきである1,2)。圧迫療法には工夫された様々なデバイスがあることから使用を検討されたい。
漢方では水代謝を調整する方剤を利水剤と呼び,西洋医学の利尿剤とはその特徴を異とする。
リンパ浮腫に試みる漢方治療として利水剤の五苓散,それに抗炎症作用を持つ小柴胡湯との合方である柴苓湯,また,高齢者には腎を補う八味地黄丸,それに車前子と牛膝を加えた牛車腎気丸があげられる。これらは共通する生薬として,気血の流れを順調にし水の停滞を解消する桂皮,水分バランスを整える利水作用の沢瀉,停滞した水分を取り去り利尿をつける茯苓を含んでいる。
沢瀉を含まなくなるが抗炎症作用に瀉下・向精神作用も期待するならば大黄を有している九味檳榔湯をあげる。しかし,桂皮を含んだ利水剤を使い分けただけでは軽快は難しい。桂皮,茯苓,沢瀉の作用をさらに増強する生薬として黄耆があげられる。黄耆は補気作用を第一として様々な効能を有するが,その本質は組織間質において各生薬が作用する場を整えるものではないかと考える。そこに利水作用をもつ防已,朮を有する防已黄耆湯をあげる。
防已黄者湯は『金匱要略』が原典で,「其の人或いは頭汗出でて表に他病なし。病者ただ下重く腰より以上和を為し,腰以下当に腫して陰に及ぶべく,以て屈伸し難し」とある。下半身ばかり腫れて上半身に異常がないと言っており,これはまさに下肢浮腫を表している3)。構成生薬の防已・黄耆・朮・生姜は利水消腫作用を有し,水太り体質の肥満や汗かき傾向のある人が証であるが,この目標に必ずしもこだわる必要はない。
本症例においては圧迫療法が物理的な動的作用を発揮し,防已黄耆湯のみで効果を見たが,防已黄耆湯を主軸に桂皮を含む利水剤との併用を考慮されたい。