僧帽弁狭窄症(mitral stenosis:MS)では,左室への流入障害の進行により左房圧が上昇し,息切れや呼吸困難が現れる。頻脈性心房細動を合併すると,症状が著しく悪化する。左房内の血液滞留が血栓形成を促し,心原性脳塞栓症の原因となるため,時機を逸することなく治療介入する。通常,リウマチ熱に感染して15~20年後,45~65歳くらいで発症する。近年,リウマチ性MSの発症率は大幅に低下しており,その代わりに僧帽弁輪部の石灰化(MAC)による狭窄が問題となっている。
聴診ではⅠ音の亢進,僧帽弁開放音,心尖部の拡張期ランブルが聴取される。僧帽弁の弁口面積が,1.0~1.5cm2の場合は中等症,1.0cm2未満の場合は重症である。平均圧較差は,中等症では5~10mmHg,重症では10mmHg以上とされるが,心拍数などの影響を受けるため,あくまで参考とする。
中等症であっても有症候であれば,内服薬治療ではなく外科的治療の適応である。手術による人工弁置換術(MVR)が第一選択であるが,解剖学的に可能であれば,カテーテルによる僧帽弁交連裂開術(PTMC)を考慮する。また,可能な限り洞調律を維持し,心房リモデリングの進行を抑制する。
機械弁を用いたMVRを行うと,生涯で1度の手術ですむが,終生ワーファリン(ワルファリンカリウム)による抗凝固療法が必要となる。ワーファリンについては,近年,高齢者において脳出血や消化管出血,服薬忘れによる血栓塞栓症や人工弁機能不全が問題となっている。生体弁を選択すると,ワーファリンは不要であるが,10~20年で人工弁機能不全が生じ,再手術が必要となる。
PTMCが推奨される解剖学的条件は,リウマチ性MSで,中等度以上の僧帽弁逆流がなく,交連部の癒合が比較的左右均等で石灰化がないことである。十分な僧帽弁の開大(弁口面積が1.75cm2以上)が得られれば,再手術の必要性は低い。リウマチ性MSでは,70歳以降に心房細動,三尖弁閉鎖不全,大動脈弁疾患などを高頻度で合併し,これらを手術で一期的に治療できることの意義は大きい。PTMCの役割は,生体弁MVRが可能な年齢である65歳までのブリッジとして,また80歳以上の高齢者に対する代替治療として位置づけられる。
MACによるMSでは,石灰化のため人工弁縫着が困難で手術リスクが高いことから,症状軽減を目的とした保存的治療が主体となる。
残り1,047文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する