No.5063 (2021年05月08日発行) P.101
徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)
登録日: 2021-04-23
最終更新日: 2021-04-23
急性大動脈解離は重篤かつ緊急性が高い疾患。しかも欧米と比べて日本では頻度が多い。造影CTへのアクセスの遠い一般外来での診断は困難であり、必然的に訴訟リスクが高い疾患となっている。危険因子は、高血圧症、喫煙、動脈硬化症、遺伝性または非遺伝性の結合組織疾患などだ。古典的三大症候は、移動する胸背部痛、裂ける様な痛み、脈拍の対称性欠如、である。しかし、非典型ケースが多く、そのような場合に診断エラーのリスクが高い。救急車搬送よりも歩行受診ケースでの診断エラーのリスクが高いとする研究がある1)。
痛みの程度が軽くて診療所を受診するような状況要因はエラーのリスクが高いと考えられる。特に痛みの問診を行っていなかったケースで診断エラーが多い2)。突然発症、移動性、裂ける感じ、痛みの程度、放散部位、持続時間などの基本的な問診をすべきといえる。
一方、急性心筋梗塞と同様に、高齢者や糖尿病患者では、無痛性もみられることがある3)。特に失神、意識障害、脳梗塞による神経脱落症候、心タンポナーデがあると無痛性が多くなることに注意する4)。
大動脈解離はカメレオン疾患であり、様々な疾患の症候に似る。急性心筋梗塞、うっ血性心不全、脳梗塞、などだ。むしろこれらは、大動脈解離による血流遮断によって起こる代表的な合併症である。それぞれの機序は、右冠動脈血流低下による急性下壁心筋梗塞、急性大動脈弁閉鎖不全による急性心不全、右腕頭動脈血流低下による右側脳梗塞だ。胸部単純写真で縦隔拡大の程度が小さい場合、それのみで安易に否定してはならない。検査前確率が高いときには、縦隔拡大が無いことでは否定にはならない。
大動脈解離診断リスクスコア(Aortic dissection detection risk score:ADD-RS)にDダイマーを組み合わせた臨床予測ルールもある(表と図)。これの妥当性を検討した研究では、見逃し率は0.3%であった5)。もしDダイマーを迅速に測定して結果が得られるのであれば、このルールを参考にすることもよいだろう。
【文献】
1)Kurabayashi M, et al:J Cardiol. 2011;58(3):287-93.
2)Ohle R, et al:CJEM. 2019;21(5):618-21.
3)Park SW, et al:Mayo Clin Proc. 2004;79(10):1252-7.
4)Imamura H, et al:Circ J. 2011;75(1):59-66.
5)Nazerian P, et al:Circulation. 2018;137(3):250-8.
6)水戸済生会総合病院臨床研修ブログ
[https://gamp.ameblo.jp/mitosa-re/entry-12570455771.html]
徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[診断推論]