急性発症の咽頭痛のほとんどはウイルス性の急性咽喉頭炎により引き起こされ,この場合には特別な対応が必要となることはほとんどない。しかし頻度は低いものの,“killer sore throat”と表現される,致死的な病変が隠れていることに十分な注意が必要である。
切迫する気道緊急となりうる急性喉頭蓋炎,そして気道狭窄,縦隔炎,敗血症といった重篤な合併症を引き起こす可能性のある扁桃周囲膿瘍や咽後膿瘍といった深頸部感染症,さらには症状が咽頭痛のみの急性冠症候群(ACS)や急性大動脈解離を見落とさないようにする。その他の咽頭痛を発症する重篤な疾患としてはアナフィラキシーや外傷,熱傷,異物などがあるが,これらは病歴から明らかとなることが多い。
このような致死的となりうる急性病変ではなく,慢性的に持続する咽頭痛の場合には,悪性腫瘍の初期病変を見逃さないようにする必要がある。また,このような慢性の経過の場合には,自己免疫疾患や心因性疾患が関係していることもある。
現病歴の聴取では,咽頭痛の発症時期と持続期間および症状の重症度,また随伴する症状に注意すべきである。
咽頭痛の多くは急性発症であるが,感冒を中心としたウイルス感染の場合,その多くに発熱や鼻汁,咳といった随伴症状を認めるものの,いずれの症状も重症感はない。しかし,同じ急性発症であっても,鼻汁や咳以外の症状として嚥下時痛,嚥下困難,発声困難,呼吸困難などを同時に伴っている場合には,他の重篤となりうる疾患を疑う必要があり,また,局所に所見がないのに咽頭痛が激しい場合には心筋梗塞の関連痛であったりすることもあり,注意が必要である。
その他の咽頭痛として化学物質の誤飲によるびらん,魚骨や義歯といった異物による外傷などもあるが,咽喉頭の外傷,熱傷の場合には受傷のタイミングがはっきりしており,これを問診で確認できることが多い。ただし,高齢者の場合には,自分の義歯がなくなっていることに気がついていない,ということも起こりうる。
上述のように,稀ではあるが気道緊急が起こりうる重篤な疾患が隠れている可能性がある。このため,次のような徴候の確認が最優先となる。
まず視診で全身状態を確認し,さらに頻呼吸,吸気努力,呼吸困難感などがあるかどうかを見きわめる。そして聴診で上気道の吸気性喘鳴(stridor)が聞かれる場合には,気道狭窄を最も疑う。同時にバイタルサインを確認し,呼吸数やSpO2の確認を行うことは言うまでもない。
上記のような重篤なサインがない場合でも,咽頭痛に発熱や嚥下障害,頸部リンパ節腫脹,頸部の圧痛などが加わる場合には,局所の感染を疑うきっかけとなる。特に扁桃周囲膿瘍や深頸部膿瘍は時間経過によって気道狭窄,縦隔炎,敗血症,大血管破裂などの重篤な合併症を引き起こすことがあるため,早期の治療開始が重要である。また,視診で咽頭が正常にみえるにもかかわらず重症の咽頭痛がある場合は,急性喉頭蓋炎を疑うべきである。急性喉頭蓋炎は,初診時に気道狭窄症状がなくとも,時に数分の単位で急速に腫脹が進展して窒息に至ることもあることを念頭に対応する必要がある。
咽頭痛が長期に遷延する場合には,悪性腫瘍の可能性もあるため1回の診察で終了とせず,咽頭痛の原因が判明するまで経過観察を行う。
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