骨盤外傷は血管損傷を伴うと骨盤内出血により致死的な転帰をたどることがあり,循環動態が不安定であれば,その安定化が最優先される。
高エネルギー外傷においては骨盤外傷を必ず念頭に置き,JATECのprimary surveyのABCDEの「C」で骨盤骨折を評価する。
高齢化社会に伴い,転倒などの低エネルギー外傷による脆弱性骨盤骨折(fragility fracture of the pelvis:FFP)が増加している。高齢者の股関節痛で大腿骨近位部骨折を認めない場合,同側の恥・坐骨骨折であることもある。
血圧低下,頻脈,冷汗,四肢末梢の冷感,意識障害などが出血性ショックを示唆する。初療時にバイタルサインが安定していても,短時間の経過で出血性ショックをきたすことがある。β遮断薬内服例などでは頻脈をきたさず,ショックに気づきにくい。抗血小板薬・抗凝固薬の内服例では,出血が助長される。
外見上の骨盤の変形,脚長差が明らかであれば骨盤骨折を疑う。
疼痛:疼痛部位,圧痛の確認を行う。腸骨稜への圧迫による疼痛の誘発も診断の一助となるが,重症の骨盤骨折では転位を助長し,出血が悪化するので行ってはならない。また,高齢者では恥・坐骨骨折と大腿骨近位部骨折の疼痛が紛らわしいことがある。
出血:骨折部周囲や陰部の腫脹,皮下出血がみられる。また,造影CTにて活動性の出血部位や血腫量を評価する。
神経麻痺:仙骨骨折ではL5以下の神経症状を伴うことがある。知覚麻痺,運動麻痺を確認する。
受傷機転や外力の方向の聴取から,およその骨折型が推定できる。救急外来では単純X線写真を撮影し,迅速に診断する。
骨盤骨折だけでなく,直腸・肛門損傷,生殖器損傷,尿道や膀胱など尿路損傷,仙骨骨折に伴う神経損傷(膀胱直腸障害や坐骨神経領域の障害)などの合併症にも留意する。
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