新興感染症とは,近年,新たに認識された,公衆衛生において問題となりうる感染症のことを表し,重症急性呼吸器症候群(SARS),中東呼吸器症候群(MERS),エボラ出血熱などが代表的である。一方,再興感染症とは,既知の感染症であり,これまで大きな問題とならなかったが,近年,公衆衛生上の脅威となりうると認識されている感染症のことであり,国内においては結核が代表的な疾患である。
輸入感染症は,国内には存在しない,あるいはきわめて稀な感染症で,主に海外で感染し国内に持ち込まれる感染症の総称とされることが多く,マラリア,デング熱,ジカウイルス感染症などが代表的である。新興・再興感染症に含まれるもので輸入感染症となりうるものもある。ここでは紙幅の都合上,個別の治療については割愛し,救急領域における病原体が確定する前の対応について述べる。
新興・再興感染症,輸入感染症に適切に対応するには,帰国邦人であれば渡航歴,渡航地域,渡航期間,渡航先での行動,症状出現の時期および初発症状,同伴者の症状などがきわめて重要であり,海外からの旅行者であれば,これに加えて出生地や居住地も重要である。これらの情報と厚生労働省検疫所「FORTH」ホームページ1)等で流行状況などを確認し,総合的に鑑別診断を行う。
新興・再興感染症,輸入感染症患者の多くは,一般的な感冒症候群を思わせる上気道症状や急性胃腸炎を疑わせるような症状を呈して来院することが多く,そのほとんどの身体所見が非特異的である。バイタルサインや身体所見,個別の検査のみで鑑別診断が行えることはきわめて稀で,上記の病歴聴取などにより新興・再興感染症,輸入感染症の可能性のある患者を早期に認知することが最も重要である。
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