TAVI後DOACの有用性を検討したランダム化比較試験(RCT)としては、2019年の米国心臓協会(AHA)学術集会で報告されたGALILEO試験が記憶に新しい。DOAC群の死亡・血栓性イベントリスクは、アスピリン単剤に比べ有意に高かった。
今年の米国心臓病学会(ACC)学術集会(バーチャル開催)では、対照群に抗血小板薬だけではなくビタミンK拮抗薬(VKA)も加えたランダム化試験“ATLANTIC”が報告されたが、やはりDOACは従来治療を上回る優越性を示し得なかった。ソルボンヌ大学(フランス)のJean-Philippe Collet氏が報告した。
ATLANTIC試験の対象は、TAVIに成功した1500例である。抗血栓療法既往の有無は問わない。ただし、抗血栓治療下で脳血管障害をきたした例や頭蓋内出血既往例、また出血高リスク例などは除外されている。
平均年齢は82歳。27%に心房細動が認められた。TAVIの種類は自己拡張型とバルーン拡張型がほぼ半々だった。また“Valve-in-Valve”が5%を占めた。
これら1500例が、VKAないし抗血小板薬(抗凝固療法適応のない例)を用いる「従来治療」群とアピキサバンを用いる「DOAC」群にランダム化され、非盲検下で1年間観察された。アピキサバンの用量だが、65.6%が5mgを服用していた。
なお「従来治療」群の9.3%、「DOAC」群の6.8%が追跡不能となった(死亡を除く)。
その結果、1次評価項目である「死亡・脳卒中・心筋梗塞・血栓塞栓イベント[全身性塞栓症、心内/弁血栓、深部静脈血栓症/肺塞栓症]・大出血」の発生率は、「DOAC」群で18.4%、「従来治療」群は20.1%だった。「DOAC」群におけるハザード比(HR)は0.92(95%信頼区間[CI]:0.73−1.16)となり、優越性の証明には至らなかった。対照群を、VKA服用例と抗血小板薬服用例に分けて比較しても同様だった(事前に層別化)。
また、安全性1次評価項目である「生死にかかわる出血(出血死含む)・大出血」の、「DOAC」群におけるHRは1.02(95%CI:0.72−1.44)だった。
一方、上記1次評価項目から「弁血栓」を除いた比較では(後付解析)、「DOAC」群におけるHRが1.12(95%CI:0.88−1.44)と高い傾向を認めた。
同様に、2次評価項目である「死亡・心筋梗塞・脳卒中/一過性脳虚血発作」も、「DOAC」群でリスク上昇傾向が見られた(10.5% vs. 8.26%、HR:1.32、95%CI:0.95−1.85)。
死亡も同様である(7.2% vs. 5.5%、HR:1.39、95%CI:0.92−2.09)。特に抗血小板薬のみとの比較では、「DOAC」群における死亡HRは1.86(95%CI:1.04−3.34)の有意高値となっていた(後付解析)。
本試験はBMS社とPfizer社の資金提供を受けて実施された。