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僧帽弁逸脱症[私の治療]

No.5068 (2021年06月12日発行) P.38

服部浩治 (東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科臨床教授)

尾﨑重之 (東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科主任教授)

登録日: 2021-06-10

最終更新日: 2021-06-08

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  • 僧帽弁逸脱症は,収縮期に僧帽弁弁尖の一部が弁輪面を超えて左心房側に落ち込み,僧帽弁閉鎖不全(MR)をきたす疾患である。弁尖や腱索の変性による特発性の機序が多く,慢性の経過をとることが多い。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    初期では自覚症状に乏しい。進行に伴い,労作時息切れが出現する。無症状のまま心機能が低下する例もあるので,注意する。

    【聴診】

    全収縮期雑音が聴取される。収縮期クリックも特徴的である。

    【心エコー図検査】

    MRが疑われたときには,経胸壁心エコー図検査が必須である。逆流の重症度,逸脱部位と範囲の特定,逸脱の成因,逸脱弁と非逸脱部の性状を観察する。心雑音が大きく聴取されるのに逆流jetが小さく観察される場合(交連部の逸脱や,左房を回旋するjet)などは,経食道心エコー図検査の実施を考慮する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    僧帽弁逸脱症は,急性発症すること(心筋梗塞に伴う乳頭筋の断裂や感染性心内膜炎に伴う破壊など)もあるが,ほとんどが慢性の経過をとる。

    病理学的には,腱索の変性による断裂・延長のため一部の弁尖逸脱がみられるも,他の弁尖は正常なfibroelastic deficiency(FED)が多い。変性が腱索のみならず広範囲の弁尖に起こり拡大・膨隆・逸脱がみられるBarlow病まで,変性の程度により様々なタイプがある。逸脱部位が単独の場合,後尖の中央から後交連側に多い。

    手術による僧帽弁形成術の良好な成績が知られ,重症MRがあれば手術を考慮する。フレイル,認知機能低下,糖尿病,呼吸機能低下,腎機能障害,肝硬変などの合併症例や,症状のない症例に対しても,循環器内科医・心臓外科医を含む多職種からなるハートチームで治療効果・予後などの総合評価を行い,手術適応を決める。また,心房細動を合併していればMaze手術や左心耳閉鎖術を,三尖弁閉鎖不全合併例には三尖弁輪形成術を同時に行うことが可能である。

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