網膜色素変性は,網膜の視細胞あるいは網膜色素上皮細胞を原発とし,進行性かつ広範囲に網膜の変性をきたす遺伝性の疾患である。日本における視覚障害の原因としては,緑内障についで2番目に多い。わが国における有病率は4000~8000人に1人であり,これまで60種類以上の原因遺伝子が知られている。様々な遺伝形式をとりうるが,わが国では孤発例(家系内に他の発症者が確認できない例)が多いことが知られている。指定難病のひとつである。
初期症状は夜盲であり,進行するにつれて視野欠損(特に中間周辺部の視野欠損)を自覚するようになる。疾患が網膜の中心部に及ぶと視力も低下する。これらの症状のほかに,羞明(まぶしく感じる),歪視(歪んでみえる),色覚異常などの症状を訴えることもある。進行の速度は患者により様々であり,小児期に重度の視覚障害に至る症例がある一方で,高齢でも日常生活にそれほどの不自由がない症例もある。
視野検査では,輪状暗点や求心性視野狭窄がないかを確認する。眼底検査では,眼底周辺部に骨小体様の色素沈着がないか,また網膜血管の狭細化や視神経乳頭の萎縮がないかを確認する。小児の網膜色素変性では,眼底検査だけでは診断の難しい症例がある。光干渉断層計(OCT)では,黄斑の中心部のみエリプソイドゾーンが存在し,周辺部の網膜外層は菲薄化していることが特徴的である。眼底自発蛍光では,黄斑部に過蛍光リングがみられることが多い。
網膜電図(ERG)は,本症の確定診断にきわめて重要である。眼底に異常がない初期であっても,ERGの振幅は明らかな低下を示すことが知られている。
遺伝子検査については,倫理委員会の承認を得た特定の研究機関でのみ行われており,現時点では診断に使用される一般的な検査にはなっていない。遺伝子変異の検出率は30~60%程度である。
網膜色素変性は,有効な治療法がないため,進行の程度に応じて生活指導,合併症の管理,リハビリテーション,生活支援および社会支援を行う。
現時点で有効性が確立している治療法がないことを患者に伝えるが,多くの患者では進行性の遺伝難病で治療法がないという事実を受け入れるのに時間がかかる。進行が緩徐であり,進行速度も患者によって様々であること,完全な失明に至ることは少ないこと,また近年では遺伝子治療,細胞治療,人工網膜などの新たな治療研究が進んでいることなどをよく話し,少しずつ患者との信頼関係を築いていくことが大切である。進行した患者であっても,視覚補助具や社会福祉制度の活用により社会活動の継続が可能であると患者に伝えることが重要である。
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