「急性硬膜下血腫」と「慢性硬膜下血腫」はまったく別の病態であるが,背景には必ず頭部打撲がある。高エネルギー外傷や意識障害が明確な場合はともに救急医療の対象になるが,一般医家でも思わぬ場面で遭遇する。小児例や核家族的高齢者症例では虐待背景を鑑別する。急性硬膜下血腫は,歩行中の転倒など比較的軽微な頭部外傷によっても起こる。急性硬膜外血腫を伴う場合は,意識清明期の良好な神経所見を「異常なし」と誤認すると,不幸な転帰をたどる。外傷性凝固障害(acute traumatic coagulopathy:ATC)を合併する重症頭部外傷例では,可能な限りATCが落ち着いてから手術する。
慢性硬膜下血腫は高齢者に多く,定型的には週単位で先行する頭部外傷歴があり,緩徐進行性に頭痛・片麻痺等が悪化する。外科的治療によりほぼ完治するが,再発例もある。
受傷機転・既往歴(悪性疾患,抗血栓療法の有無)を聴取し,合併損傷等を確認する。必ず凝固能検査を行う。
頭部CT検査(単純CT/骨条件CT/頭蓋骨3D-CT/脳血管3D-CT撮影)が診断に最も有用である。特に小児例では放射線被ばくがたびたび話題となるが,各医療機関で決められたルール等にのっとり,検査による有益性が被ばくリスクを上回ることを家族に説明する。GCS 13以下(中等症以上)の頭部外傷患者や頭蓋底骨折を伴う場合には,造影CT検査により頭蓋内内頸動脈損傷の有無と,損傷と骨折の位置関係を必ず確認する。両側性慢性硬膜下血腫患者では,CT検査上,血腫が等吸収域を呈しているため周辺脳と見わけることができず,血腫が指摘できないことがあるので注意する。内因性疾患(心筋虚血,脳動脈瘤破裂など)による二次的頭部外傷を必ず鑑別する。
急性硬膜下血腫では血腫厚1cm以上あるいはmidline shiftが5mm以上なら手術適応となるが,血腫量が軽微でも脳挫傷・脳浮腫によって経時的に頭蓋内圧亢進をきたすことがあるので,GCS 8以下の重症頭部外傷では,血腫摘出の対象とならなくても頭蓋内圧モニター下での集中管理を行う。頭蓋内圧亢進(>25mmHg)傾向を認めれば開頭手術に移行する。
開頭手術では先行する抗凝固療法が手術延期理由にはならないので,凝固能補正は手術準備と同時に行う。ただし,ATCに陥っている場合は,ATCの治療をしないと予後不良1)であるため,ATC治療を先行させ,外科的治療介入のタイミングを意図的に遅らせる。
症候性慢性硬膜下血腫では必ず外科的治療を検討する。急性硬膜下血腫は開頭手術,慢性硬膜下血腫は穿頭手術がそれぞれ選択される。なお,検査により偶然に硬膜外血腫を指摘された事例では,必ずしも手術適応とはならない。
一手目 :神経診察・画像診断(意識状態・神経所見の確認)
頭部CT検査により急性・慢性を鑑別する。頭蓋内外の合併損傷の有無を確認する。硬膜下水腫は手術適応ではないが,診断に迷う場合は頭部MRI検査を追加する。
二手目 :内科的治療の確認
既往症・凝固能を確認する。ケイセントラ®(乾燥濃縮人プロトロンビン複合体)などによりリバースする。
三手目 :外科的治療の選択
治療検討中にも血腫は拡大するので,画像検査が行われた時間は現在時刻の何分前なのかを常に確認し,頭部CT再検査を躊躇しない。経時的に悪化している症例はそのまま手術室に向かうが,凝固能検査結果からATCと判断される場合には,初療室でHITT(hematoma irrigation with trephination therapy)療法を行い,凝固能の改善を待って手術を実施する。初療室で頭蓋内圧モニターを開始した場合は引き続き緊急手術になることがあるので,手術室スタッフと情報共有する。
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