網膜静脈閉塞症は,中高年では加齢・高血圧・動脈硬化,若年では視神経乳頭血管炎などの炎症性疾患や白血病などの血液疾患が原因となることが多い。網膜静脈閉塞症は,閉塞部位により網膜静脈分枝閉塞症(BRVO:血管の閉塞部位が網膜内にある)と網膜中心静脈閉塞症(CRVO:視神経乳頭よりも中枢側で閉塞が起こっている)にわけられる。黄斑浮腫や網膜虚血,硝子体出血による視機能低下が臨床上の問題となる。
BRVO,CRVOともに網膜静脈の拡張・蛇行がみられ,特徴的な網膜出血(BRVOでは静脈の閉塞部から上流に向けて扇形に広がる刷毛で掃いたような網膜出血,CRVOでは視神経乳頭を中心にして放射状に広がる網膜出血)をきたすため,倒像鏡眼底検査や眼底カメラでの所見が診断のポイントとなる。
BRVO,CRVOともに治療対象となる病態は黄斑浮腫,網膜・隅角新生血管,硝子体出血・牽引性網膜剥離である。薬物治療に関しては,薬物クリアランスに伴い黄斑浮腫が再燃する例も多く,繰り返し投与による患者の精神的・経済的負担を考慮して治療にあたる必要がある。
①抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注入を第一選択とする。大規模臨床試験にて,黄斑浮腫の改善と平均3段階前後の視力改善が得られることが証明されている1)。副作用として,心筋梗塞・脳卒中のリスクが報告されており,3カ月以内に心筋梗塞・脳卒中の既往のある患者では,適応を慎重に考慮する必要がある。
②トリアムシノロンの硝子体内注入と徐放薬は,大規模臨床試験で有効性が証明されたが2),抗VEGF療法に比べ視力改善幅や白内障の進行,眼圧上昇といった副作用の点で劣るため第一選択とはならない。わが国では,トリアムシノロンの硝子体内投与や徐放薬に比較し,合併症リスクの低いテノン囊下注射が多用されるが,浮腫軽減作用が抗VEGF療法に劣るため,抗VEGF療法が行えない患者,自然寛解が期待できそうな患者に対して行う場合が多い。また,1年以上経過し遷延する黄斑浮腫に対して,抗VEGF薬投与後2,3カ月で併用し,抗VEGF薬の投与間隔を延ばす試みをしている。
③若年者CRVOなど高血圧・動脈硬化を伴わず,乳頭血管炎が関与している場合には,ステロイドの内服〔プレドニン® 5mg錠(プレドニゾロン)0.6~0.7mg/kg/日(標準体重であれば8錠)程度より漸減〕,もしくはミニパルスを行う(1週間程度で半減させるが,それ以降は3カ月以上かけてゆっくりと漸減させる)。ステロイドを使用する場合は,凝固能が亢進する可能性があるため,バイアスピリン®(アスピリン)の内服を併用することが多い。また,プレドニン®内服の効果が限定的な場合は,トリアムシノロンのテノン囊下注射を追加することもある。ステロイド治療に反応しない,もしくは,反応するが内服のみでは寛解・増悪を繰り返す場合は,抗VEGF療法を試みる。
①レーザー治療は,抗VEGF療法に比べ視力予後が劣ることが大規模臨床試験で証明されたため3),BRVOおよび非虚血型CRVOの急性期におけるレーザー治療の適応はない。また,抗VEGF療法との併用療法の有効性も否定的であるため行わない。
②1年以上抗VEGF療法を施行しても遷延する黄斑浮腫に対しては,黄斑近傍の漏出血管に対する直接凝固(小照射径・短時間・低出力照射)を行っている。
虚血型CRVOに対して,抗VEGF療法は発生時期を遅らせるだけで虹彩新生血管の発生頻度を抑えられないため,新生血管が確認され次第,汎網膜光凝固を行う。施行時期に関しては,抗VEGF療法を行っている間は急ぐ必要はないが,高度虚血型〔血柱が暗赤色を呈する症例,網膜全周に多数の軟性白斑が認められる症例,フリッカーERG(網膜電図)にてb波の潜時が37msを超える症例〕の場合,発症後1カ月以内でも虹彩・隅角に新生血管が生じることがあるため,直ちに汎網膜光凝固を行う。高齢者(80歳以上が目安)の虚血型CRVOは高度の虚血であることが多く,通院が滞ったりする場合も少なくないため,早期に汎網膜光凝固を行う。
硝子体手術は,抗VEGF療法が導入されてからは実施する頻度は減少しているが,薬物療法に抵抗する遷延例に対して行う場合もある。特に黄斑前膜のある症例や,OCTで黄斑部での硝子体の癒着が明らかな場合には,積極的に手術を勧めている。
視神経乳頭が確認できない中等度以上の硝子体出血には,硝子体手術を行う。線維血管増殖膜が生じている症例は,牽引性網膜剥離がある場合のみ膜剥離を行うが,非常に難治であることが多い。
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