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下肢静脈瘤[私の治療]

No.5076 (2021年08月07日発行) P.32

孟 真 (横浜南共済病院心臓血管外科・院長補佐)

登録日: 2021-08-05

最終更新日: 2021-08-03

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  • 下肢静脈瘤は下肢の表在静脈の逆流によって起こる疾患で,下肢静脈の拡張・瘤化がみられ,下肢痛,浮腫,うっ滞性皮膚炎,潰瘍などを起こす。深部静脈血栓症と混同されがちであるが,肺塞栓症を発症することは非常に稀である。頻度は高いが,外見の変化のみでほかに症状がない場合は治療を要さない。

    ▶診断のポイント

    立位にて診察を行い,静脈拡張・瘤化があるかでほとんどの場合は診断ができる。通常は径3mm以上の血管拡張を静脈瘤とし,それ以下のクモの巣状(毛細血管),網目状の静脈の拡張は美容上の問題にはなるが,うっ滞症状を起こすことは稀である。

    ▶私の治療方針・治療の組み立て方

    静脈瘤の種類と基礎疾患により治療方針が異なる。

    【症侯のある一次性下肢静脈瘤】

    下肢痛,浮腫,うっ滞性皮膚炎,潰瘍などの静脈うっ滞症状のある場合では,弾性ストッキングなどによる圧迫療法や下肢静脈瘤血管内焼灼術の適応となる。ただし,下肢痛,こむら返り,浮腫,瘙痒感は静脈瘤に特異的な症状ではなく,整形外科疾患,内科疾患,皮膚疾患などでも起こりうる。血管内焼灼術など侵襲的な治療を行う際には,症侯が厳密に静脈瘤に由来することを判別してから手術を施行しなければならない。さもなければ手術を行っても,患者が困っている症状は改善しないこととなる。一部の医療機関ではただ静脈瘤があるだけ,あるいは静脈瘤がないのに症侯があるだけで手術を行っている場合があり,注意しなければならない。症侯のある一次性下肢静脈瘤で手術可能な場合は,漫然と弾性ストッキングを継続しても治癒せず,患者のQOLを落としてしまうので手術を選択する。信頼できる施設に紹介することが大切である。

    【表在性血栓性静脈炎を合併した一次性下肢静脈瘤】

    無症状の下肢静脈瘤で静脈瘤に血栓ができ,急に疼痛,発赤を起こした状態である。深部静脈血栓症や肺塞栓症の合併は稀で,通常鎮痛薬,局所圧迫で治癒するが,疼痛が強い場合や下肢全体が腫脹する場合は信頼できる施設に紹介する。

    【症侯のない一次性下肢静脈瘤】

    一次性下肢静脈瘤は無症状の患者も多い。これらの患者は進行した際の症侯の説明のみで治療を要さない。無症候の一次性下肢静脈瘤は慢性の良性疾患であり,早期に手術を行うことによる患者のメリットはなく,症侯性となってからでも治療は間に合う。また静脈瘤があるだけで弾性ストッキングが処方されている場合があるが,静脈瘤進行予防の効果は明らかでない。症状のない場合は患者のQOLを落とすので弾性ストッキングを使用しなくてよい。下肢静脈瘤は弱い深部静脈血栓症の発症リスクであるがその発症率は低く,深部静脈血栓症,肺塞栓症予防のために無症候の下肢静脈瘤の手術を行うべきではない。

    【深部静脈血栓症の既往がある患者の下肢静脈瘤】

    深部静脈血栓症の既往がある患者の静脈瘤(静脈血栓後症候群による二次性静脈瘤)の場合は,基礎疾患の深部静脈血栓症の状態に応じて加療方針が異なるが,静脈うっ滞症状のある場合は弾性ストッキングなどによる圧迫療法の適応となる。手術適応は例外を除いてない。

    【クモの巣状静脈瘤(毛細血管拡張)・網目状静脈瘤】

    静脈瘤は通常は径3mm以上の血管拡張で,それ未満の毛細血管,網目状の静脈の拡張は美容的な問題にはなるが,うっ滞症状を起こすことは稀である。局所の疼痛,熱感や美容的愁訴が強い場合でも手術の適応でなく,硬化薬を注射する硬化療法の適応である。

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