菅義偉首相は8月2日に開いた新型コロナ感染症医療提供体制関係閣僚会議で、現下の感染者数急増を踏まえ、中等症以上は原則入院としていたこれまでの対応を見直し、「重症患者や特に重症化リスクの高い者」以外の患者は「自宅療養」を基本とするという新たな方針を示した。家庭内感染の恐れがあるなどの事情がある場合は宿泊療養を活用するとした。
菅首相は「パルスオキシメーターを配布し、身近な地域の診療所が往診やオンライン診療などで丁寧に状況を把握できるようにする。そのため、往診の診療報酬を拡充する」と述べ、厚労省が投与対象を入院患者に限定している中和抗体薬「ロナプリーブ」について「在宅患者を含めた取り組みを進める」考えも示した。
菅首相は翌3日、日本医師会、日本看護協会など医療関係5団体のトップと意見交換し、政府の新たな方針への理解と協力を求めた。終了後、日医の中川俊男会長は記者団に対し「(中等症患者も)医師が必要と判断すれば入院できることを総理に確認した」と述べた。
政府の方針転換に医療現場からも疑問の声が上がる中、厚労省は3日、「現下の感染拡大を踏まえた患者療養の考え方」をまとめ、全国に送付した。
その中で同省は、「患者が急増している地域」では、重症患者や特に重症化リスクの高い者に「入院治療を重点化することも可能」と柔軟な対応を認める考えを示し、重症患者などに入院治療を重点化する場合は、自宅・宿泊療養者の症状悪化に備え、空床を確保するよう自治体に要請した。
同省は併せて、往診等に対する診療報酬上の特例的評価として「自宅・宿泊療養者に往診・訪問診療を実施した場合、1日当たり1回、救急医療管理加算950点を加算できる」取り扱いを7月30日から適用したことも周知した。
日医の中川会長は4日の記者会見で、「中等症Ⅱ(呼吸不全あり)はもちろん、中等症Ⅰ(呼吸不全なし)についても、現場の医師が重症化のリスクが高いと判断すれば入院の対象とすべき」と改めて強調。意見交換の場で「(菅首相、田村憲久厚労相から)重症化する患者にしっかりと医療を提供できることが大変重要。医師の判断の下で対応いただきたいとの明確な回答をいただいた」と述べた。
中川会長は、中和抗体薬の使用対象を在宅患者に拡大することについて「十分な供給量を確保した上での入院患者以外への使用に同意する」と菅首相らに伝えたことも明らかにした。