一般的に、2型糖尿病(DM)例の心血管系(CV)イベント抑制には、血糖だけでなく血圧や血清脂質も改善を図る、多面的介入が有用であるとされている。主たるエビデンスは、ランダム化試験(RCT)“Steno-2”だろう。しかしSteno-2が報告されたのは2003年であり、かつ対象は160例という少数であり、かつ盲検化はされていなかった。そこで「多面的介入」の有用性を今日の大規模2型DMコホートで検討したらどうなるか。2つの大規模RCTメタ解析の結果を、Steno-2試験を実施したステノ糖尿病センター(デンマーク)のFrederik Persson氏が、9月27日からオンライン開催されている欧州糖尿病学会(EASD)で報告した。血糖と血圧、脂質代謝管理の進んだ現在では、CVイベント抑制における「早期腎転帰改善」の重要性が増している可能性が示された。
本解析の対象は、RCT“LEADER”と“SUSTAIN-6”に参加した、1万1678例である。全例CV高リスク2型DM例で、GLP-1アナログ、またはプラセボを服用し、二重盲検法で観察された。これらにおいて、試験開始1年後の「リスク因子改善」数と、その後の転帰との関係が検討された。
今回「リスク因子改善」とされたのは以下の6点、すなわち「1%以上のHbA1c低下」、「5%以上の体重低下」、「5mmHg以上の収縮期血圧(SBP)低下」、「19.2mg/dL以上のLDL-C低下」、「推算糸球体濾過率(eGFR)維持(非低下)」、「30%以上の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)低下」―である。Persson氏によればいずれも、臨床現場で簡便に評価可能な項目について、担当医が「改善」と考えるであろう数字を選んだという(連続変数として扱わなかったのは、臨床現場における「指標」としての活用を目指したため)。
その上で、試験開始1年後に上記「改善」が認められた数(0~4以上)に従い5群に分け、その後の転帰を検討した。「改善」数が多いほど、多面的介入に成功した群ということになる。
解析対象1万1678例の平均年齢は64.3歳で女性が36.5%を占めた。また、HbA1cは平均8.7%、SBPは136mmHg、LDL-Cは89.8mg/dL、eGFRは80.3mL/分/1.73m2(以上平均値)、UACR中央値は15.3mg/gだった。
試験開始1年後の割合は、リスク因子改善「0」群が9.0%、「1」は27.1%、「2」は30.3%、「3」は21.5%、「4以上」が12.0%だった。上記背景因子はこれら5群間で若干のばらつきを認めたものの(検定不表示)、CV疾患既往はいずれの群も80%強に認められ、有意差はなかった。
その結果、試験開始1年後から試験終了までの「CV死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中」(MACE)の多変量解析後ハザード比(HR)は、(予想に反し)リスク因子改善数が増えても減少していなかった(5群間のHRに有意差なし。また傾向P値=0.08)。
ただし、上記MACEに「血行再建再施行・不安定狭心症/心不全による入院」という、少し客観性に劣る評価項目を加えた拡張MACEでは、傾向P値は0.004となり、リスク因子改善数増加に伴うHRの有意低下傾向が認められた。しかし5群間のHR差はさほど大きくない(「4以上」群でも、対「0」群HRは0.82、95%信頼区間[CI]:0.66-1.02)。
この結果に対し座長のPeter Novodvorsky氏(臨床実験医学研究所、チェコ)は、GLP-1アナログの多面的作用によるCV保護が、古典的リスク因子減少に伴うCVイベント抑制をマスクしてしまった可能性を指摘していた。
一方、多面的改善に伴い著明なリスク低下を示したのが、「腎症」だった(傾向P値:<0.0001)。リスク因子改善数「4以上」群におけるHRは0.43(0.29-0.65)である。
次に、上記イベントリスク減少における「リスク因子改善」それぞれの強さを検討したところ、MACEでは「1%以上のHbA1c低下」による影響が最も大きく、次いで「30%以上のUACR低下」、「eGFR非低下」となっていた。拡張MACEでも同様である。これらより、2型DM例のCVイベント抑制にはHbA1cと血圧の低下に加え、「早期のUACR低下」ならびに「eGFRの維持」が重要ではないかというのが、Persson氏の見解だった。
なお腎症では、「30%以上のUACR低下」に次いで「eGFR非低下」、そして「5mmHg以上のSBP低下」がリスク減少の要因になっていた。
本研究はNovo Nordisk AVSの支援を受けた。また執筆と編集も、同社の資金による外部ライターの支援を受けた。